写真家の稲田美織さんは2002年から世界各地の聖地を撮影してきた。日本も伊勢神宮をはじめとして巡礼のように通って撮り続けている。そこで様々な「奇跡的な風景」を目の当たりにしてきた。

出羽三山に10年通い、撮りためた写真で生み出された写真集が『日月巡礼 出羽三山』だ。写真集発売を記念した集中連載の最終回は、写真集からの写真と共に、稲田さんが感じた出羽三山を伝えてもらおう。

見たことのない風景が

9月、中秋の満月を撮影するために八合目の御田原参篭所に泊まり、湿原で月の出を待ちました。江戸時代の画家でもあり俳人でもある与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」という有名な俳句があります。頭では理解していましたが、満月の時、日の入と月の出が同時に存在するその光景を目の当たりにして、そのスケールの大きさに体が震えました。

太陽が沈むと、青が深まり、月のクレーターも良く見えてきました。その美しい満月が月山の上にぽっかりと浮かび、池塘にはその満月が映されて、その上を風が通る時、その月はいくつかの波の形に分かれました。

池に映った月は天に捧げられ、それは、2つの月が呼応し合うような神秘的な光景でした。フクロウがすぐそばを飛び、観月会の仲間のようです。満月の光は何て明るいのでしょう。月光は木道を銀色に照らし、その光の道をたどると、無事に参籠所に戻ることができました。

またある満月の夜、天気が悪いので、撮影を諦めて寝ていると、夜中に何かに呼ばれたような気持ちがして、とっさにカメラと三脚を持って、外に出てみました。すると、月山の真上に満月が昇り、月の輪郭のすぐ外から、7色の光が二重に輝いているのです。それは見たことのない、神秘の月でした。
 
8月13日に行われた柴燈祭は、日本海や鳥海山を臨む月山頂上に組まれた護摩壇で火を焚いて、御霊を里にお送りする儀式ですが、神職の方が、その炎に祈りを捧げていると、パチンと爆ぜた火の粉は、天に高く舞い上がってゆき、それはまさに、故郷に戻ってゆく魂そのものではないかと思えました。その日は、毎年、ペルセウス座流星群の活動が極大になり、まるで音が聞こえるのではないかというほどの流れ星が月山に降ってきます。天の川が頭上を横切り、数えきれないほどの星に囲まれて、自分が宇宙にいることを実感しました。
 
翌日の朝行われた月山神社本宮祭は、霧に包まれる中、始まりました。宮野宮司の祝詞の後、不思議なことに霧がどんどん消えてゆき、真っ青な空と大海原のような美しい雲海の上に太陽が輝き出したのです。その写真は2018年の出羽三山神社のカレンダーに使っていただきました。暫く、その雲海を眺めていると、雲海に映る自分の影の周りが七色にひかり始めました。それは、その時間には出ることのない珍しいブロッケン現象だったのです。