2001年9月11日に起きた同時多発テロをきっかけとし、世界各地の聖地を撮り続けていた写真家の稲田美織さん。日本に拠点をうつし、現在は日本の聖地を撮り続けている。

日本の聖地のひとつ「出羽三山」も、巡礼のように通い続けたひとつである。写真集『日月巡礼 出羽三山』の発売を記念して、4回連続でその神秘をご紹介し、聖地を撮り続けてきた稲田さんが見てきたものを綴ってもらう。今回は出羽三山に初めて訪れたときのこと。稲田さんを「奇跡」が待っていた。

原田美枝子さんに誘われて

初めて出羽三山を訪ずれたのは、2010年、お山の秋が深まりつつある9月でした。それは親友である、俳優の原田美枝子さんからいただいたご縁でした。彼女は鶴岡市出身の小説家・藤沢周平さん原作の映画『蝉しぐれ』2005年に登世役で出演され、その撮影で鶴岡や出羽三山に長期滞在するなかで、その地での自然と神さまと仏さまと人々の関係にすっかり魅了され、プライベートでも出羽三山に何年も通われていました。私は彼女からその話を聞くうちに、そこには大切なものがあると直感し、彼女と一緒に中秋の満月の頃、出羽三山に赴いたのです。
 
初めてだというのに、山伏の先達により、私はなんと月山八合目から月山頂上、そして湯殿山へと、雨の中を一日で縦走したのでした。霧で景色は全く見えず、この先どれぐらいで目的地に着くのかも見当もつかず、冷たい雨の中を、ただ一生けん命歩きました。坂が急な場所は石が濡れて滑りやすいので、安全のため、カメラは山伏の方に持ってもらうことにしました。案の状その直後、2回転びましたが、おかげさまで怪我もなく、預けていたのでカメラも無事でした。

湯殿山に下りる鎖場では、その高さから今にも滑りそうで、とてもドキドキヒヤヒヤしました。その頃には足もパンパンになり、体も冷えきり、やっとのことで湯殿山本宮に辿り着き、ほっとしたことを今でも覚えています。

湯殿山本宮では、今まで見たことがない「語ることなかれ、聞くことなかれ」と言われている、神秘の御神体に参拝させていただきました。その想像を超えた御神体の前に立った時、体中が震えるような衝撃を受けました。そして、無我夢中で八合目から歩いてきた疲れはスパーンと抜けて、何か暖かいものに包んでいただいたような気持ちになりました。

ようやく雨もあがり、参籠所に行くために階段を下りてゆくと、目の前にこの世のものと思えない美しい景色が広がっていたのです。山々がまるで島のように雲から現れていて、その雲はまるで大海のようにたなびき、それは美しい墨絵のようでした。そこに湯殿山の大きい赤い鳥居だけが、色彩を持ち、雲海に浮かんでいたのです。私の初めての出羽三山は、山の厳しさとそのご神体の神秘を、体と心と魂のすべてで受け止めるような体験となり、それが、一生忘れることにできない出羽三山との出会いでした。

まるで墨絵のような景色が、稲田さんの目前に広がっていた 写真集『日月巡礼 出羽三山』のカバーになっている