月山の美しさは言葉にできない

夏の月山の美しさは、言葉にできないほどのすばらしさでした。8合目には、かつて火山だった噴火により生まれた、氷河期からの湿原・御田ヶ原が広がり、春から秋にかけて子孫を残すべく、そこに咲く高山植物やあらゆる生き物の営みは、目を見張るものでした。

湿原のあちこちに点在する、様々な命を育む池塘は、なんと風によって、形を変え移動するというのです。またそこには百数十種類の花が春から秋にかけて絶えることはありません。池塘は宇宙であり、生命そのものでした。八合目には中之宮・御田原神社があり、奇稲田姫神が祀られています。御田ヶ原という名前の由来は、その周りに広がる湿原に点在する池塘に生えているイグサの一種であるミヤマホタルイが、まるで田植え直後の水田のように見え、また紅葉した馬蹄草が秋に実った稲田のようであることから、そう名づけられたそうです。

雪渓の消えた後にはその跡に水芭蕉が丸く並び、バレエダンサーたちが可憐に舞っているようでした。6月終わりから7月初めには、頂上には月山の代表的な花の一つである、珍しいクロユリが咲きます。

また、8合目から少し上がった所には芭蕉も見たというミネザクラ、エーデルワイスの仲間であるミヤマウスユキソウ、草原のここそこには黄色いニッコウキツゲは風に揺れて、私たちを出迎えてくれるようでした。そして、羽ばたくピンク色の鳥のようなラン科のトキソウ、また可憐な白い花を咲かせ、その後の種のついた弁が揺れる様がまるで風車のようなチングルマ、尾瀬と月山にしかない、氷河期から生きるオゼコウホネ、白い穂のコバイケソウ、紫が美しいミヤマリンドウなど、ここはまるで天空のお花畑のようでした。

志津のブナの木 『日月巡礼 出羽三山』より 撮影/稲田美織

またある時、八合目の御田原参篭所にいた時に、台風が近づいてきた影響で、月山から早回しの映像を見るように、風に乗って不思議な形の雲がどんどん生まれてくる瞬間を見ました。それはまるで龍神が天に向かって昇り、鳳凰が大きな羽を広げ舞っているようでした。日没の直前で、その辺りには誰もいなかったため、真っ青な空いっぱいに広がるその神秘の光景の中に、一人ですっぽり入ってしまっていたのです。

私は伊勢神宮で静謐な美しい祈りを撮影させていただき、この月山では、その祈りの先の世界を撮影しているのだと思いました。いにしえの画家たちは、龍神や鳳凰、そして、7色に輝く日輪や彩雲を描いていますが、そういうものは想像だけでなく、確かに天から見せられていたのではないかと感じました。

写真集『日月巡礼出羽三山』の発売を記念して、「ミラクル!祈りの眼差し 稲田美織出羽三山写真展」も開催。6月22日(土)~8月4日まで 致道博物館にて
夏には「稲田美織写真展 地球聖地」も予定されている。7月6日(土)~8月4日(日)まで 山形県ショウナイホテルスイデンテラスにて