解決したと思っていたが…「環境ホルモン」問題、実は悪化していた!

スジイルカには海水中の1000万倍も
ブルーバックス編集部 プロフィール

現代でもダメージ蓄積「メチル水銀」

水銀がもたらした環境汚染としては、水俣病を忘れることはできない。

水俣病は、熊本県水俣市にある化学メーカー新日本窒素肥料(現チッソ)の工場排水に起因した公害病で、触媒として使用された無機水銀が、反応中にメチル水銀となり、それを不知火海(八代海)に流出させたことが事の発端となった。

メチル水銀は有機水銀の一種で、脂溶性で生物濃縮を生じやすい化合物として知られる。海に流れ出たメチル水銀は生物濃縮によって魚介類へと蓄積され、その魚介類を食べた人々に被害をもたらしたのである。

水俣病水俣病患者と遺族 Photo by Getty Images

水俣病の反省から、水銀の産業利用に厳しい規制がかけられたため、局所的に高濃度のメチル水銀が排出されることは少なくなり、小児・大人がメチル水銀による神経障害を発症することはほとんどなくなった。

しかしながら、低濃度であっても、メチル水銀への感受性の高い胎児への曝露が発達に影響を与えることがわかっており、近年大きな問題になっている。

水銀は、大気を介して広域に拡散することが知られている。陸地にある発生源から大気中へと排出された水銀は、大気を経由して海へと降下し、その一部は微生物との反応によってメチル水銀となって、食物連鎖を通じて生物濃縮を生じる。

その結果、生態系の上位にあるイルカやクジラなどで水銀汚染が進み、それを食べたヒトにも影響をもたらしている。

北大西洋にあるフェロー諸島は平地が少なく、優良なタンパク源であるウシやブタの飼育が困難だったことから、長年、住民は、ゴンドウクジラを捕獲してタンパク源として利用した。

食物連鎖の最上位に位置するゴンドウクジラは、メチル水銀の濃度が高いことが知られている。そこで1986年から現在まで、フェロー諸島でメチル水銀に関する出生コホート調査が行われた。出生コホート調査とは、妊娠中の女性に参加してもらい、生まれてくる子どもの成長と発達を追跡する長期的な継続調査だ。

フェロー諸島のコホート調査では、出産時の母親の毛髪に含まれる総水銀濃度は0.2〜
39.1(中央値4.5)㎍/gで、日本人女性の曝露レベル(幾何平均値1.64㎍/g)を上回った。

さらに7歳の子どもでは、胎児期のメチル水銀の曝露が高くなると、記憶、注意、言語などの能力が低下し、神経生理学的検査の指標も変化したことが報告されている。14歳と22歳でも同様な追跡調査が行われ、出産時の母親の毛髪や臍帯血(へその緒に含まれる血液)に含まれる水銀の値が成長と発達に関連していたことが報告された。

22歳という成人でも出産時のメチル水銀の曝露が影響していたという結果は、専門家を驚かせた。成人では問題にならない低レベルの汚染であっても、感受性の高い胎児や乳幼児の時期にメチル水銀に曝露すると、それが生涯にわたって影響を与え続ける恐れがあるのだ。

このため、厚生労働省は、妊婦を対象にして、マグロやクジラなど水銀含有量の高い魚を摂り過ぎないようパンフレットを作成する対策は講じている。

こうした低濃度の水銀汚染は、水俣病のような著しい健康被害は生まないもののと、軽微とはいえない無視できないほどの大量の子供たちに影響を与える危険が指摘されている。