「韓国人や在日はNHK受信料を全員免除」というデマに思うこと

ある日の、父と母と私の話
金村 詩恩 プロフィール

わたし以外の在日たちもなにかを語ればおなじような目に合っていることは容易に想像がつく。

だからこそ、自分の身を守るため、ヘイトのネタになりかねないことはたとえ事実であっても抗議しなければいけなかったのか……。

そう考えたとき、「なかったこと」にされた怒りと同時に日本にある見えない38度線から北のひとたちをすこしだけ同情する気持ちになっていった。自らが自らの記憶をなかったことにする空しさを噛み締めながら、思わず独り言を言う。

「君たちも受信料を払って、あの番組を観ていたんだね」

〔PHOTO〕gettyimages

現実はイムジン河の水のように清くないのだ。

複雑な現実を思い知ることもまだ知らないわたしは即位30周年記念式典のニュース映像がわずか数十秒で終わり、「つづいてのニュースです」とアナウンサーが機械のように別の事件を伝えている様子にあっけなさを感じていた。

画面が別の話題に切り替わったとき、「あのひとたちは北に帰っちゃったひとたちのことをどう考えているんだろうね」と母がボソッとつぶやく。

「憶えちゃいないよ。だれも責任取らないままいまになっちゃったんだから」と父が答えた。

うるさすぎるぐらいにぎやかなリビングから一瞬だけ家族の声が消え、無機質な声だけが響く。

帰国事業から60年目になる年のある昼、受信料を払って観ているテレビの前のなにげない様子である。