「韓国人や在日はNHK受信料を全員免除」というデマに思うこと

ある日の、父と母と私の話
金村 詩恩 プロフィール

北へ行ってしまった弟家族とは祖父の兄が連絡をしていたらしい。そのせいか、彼の家には「首領様」と呼ばれたあのひとの肖像画が掲げられていたという。

いまでは祖父も、祖父の兄も亡くなり、北にいる弟家族がどうなっているのか分からない。ただひとつ、手掛かりになるのは族譜に刻まれた祖父の弟とその家族の名前、生年月日、没年、亡くなった場所だけだ。

明朝体で書かれた文字だけでしか知らない「親戚」というひとたちを血の通った存在として知るためには、この番組を観なければいけなかった。

日本で左右問わず「地上の楽園」と言われていた国の実態は「凍土の共和国」であったこと、「在胞(ジェポ)」と北朝鮮のひとたちから差別され、当局からも「厄介者」とされていたこと、90年代の食糧難で身内が死に、なんとか脱北できたことなどが、60分という短い時間でつぎつぎと映し出される。

あっという間に終わってしまったあと、「大叔父さんたちはどうなったのだろう」と考え込んでしまった。

 

在日がなにかを語るのは難しい

それから数日が経ち、とある在日の先輩からLINEが来た。「飲みの誘いかな?」と思い、アプリを開いてみると呆れのことばとともにURLが貼りつけられていた。

人差し指で恐る恐るクリックしてみると先日、観た番組が「虚偽とねつ造宣伝」だとあるひとたちが抗議したというものだった。

見出しを読み、意を決して北へ渡った大叔父たちの話をして「そんなの一部のひとたちだけでしょ」と言われたときの「なかったことにされてしまった。」という言いようのない怒りを思い出した。

ほんのわずかに震える指で2ページ目のボタンを押すと記事の最後のあたりに「悪質な偏向報道が、在日朝鮮人に対する敵意を煽ることになると指摘し」という文章が目に飛び込む。震えていた指が静かになった。

ネット上には在日をめぐるさまざまなデマが流れ、それを信じたひとが旭日旗を振り回し、路上で「出ていけ」と叫ぶのが当たり前になった。

そのなかで在日がなにかを語るのはとても難しい。

以前、NHKの生放送にわたしが出演したとき、実況していた2ちゃんねるが大荒れだったそうで、書き込みを見た友人が「大丈夫?」と声をかけてくれた。

在日同士で「こいつは南のスパイ」「あいつは北の工作員」と言いあっているのを見聞きし、「どっちへ行ってもわたしはスパイ/工作員なのだろう」と思っていので「大丈夫だよ」と答えることができた。