非認可施設の診断が一番心配

夫さんが特に心配なのは、検査後のフォロー体制もない非認可施設で新型出生前診断を受け、陽性を受け取ってしまった人たちのことだ。そうなった女性は羊水検査を受ければ赤ちゃんは健常と出るかもしれないのに、すぐ中絶してしまっているケースが存在すると言われている。

「結果が出るまでが長くていいことは何もありません。その間、食事ものどを通らないくらいハラハラしているおかあさんを放っておいたらどうなるか。病気がある可能性が高いと言われただけで、親族から『そんな心配な子は産まないでほしい』と言われる人もたくさんいます。そして、何よりも、はっきりした答えがすぐに出れば、病気について詳しく知る時間もできるし、そこからどうするか余裕をもって考えることができます

夫さんやスタッフは、希望があれば、見つかった病気と同じ病気を持つ母親を紹介することもある。夫さんの胎児ドックは、一般の産婦人科では出会うことがないような珍しい病気を見つけることも多いが、その場合もその病気についての経験から、専門医や患者会などとのネットワークが生かせるのは専門クリニックの強みだ。

子どもの病気を知りたくない母は少ない

新しい検査は、常にそれまでのものより優れている。たとえば精度が高かったり、安全性が高かったり、お腹が小さいうちに実施できたりする。女性にとっては救われることばかりだ。

しかし今まで、それらは中絶される胎児が増えるからと反対されてきた。女性たちに、その存在も知らされてこなかった。出生前診断は、精度が低いもの、なかなか結果が出ないもの、女性の負担が大きいものにとどめておくのが倫理にかなったことなのだと、女性たちから見えないところで専門家たちによって決められてきた

母親がお腹の子の病気を知るということについて、夫さんはこう考えている。

「私は、知りたくないというお母さんは少ないと思います。お母さんなら、もし、育てている子どもに病気があったら、真っ先に自分に知らせて欲しいと思うでしょう。それを『そんなことは知らなくてもいいんだ』言うお医者さんがいたら『え? 私は母親ですよ。母親の私がなぜ知らせてもらえないのですか?』と思うでしょう?」

夫さんは信じているのだ。

他の先進国の母たちのように、日本の母も、もしお腹の子に異常があっても、その子にしっかりと向き合い、自分の結論を出していく力を持っているということを。

検査を終えた女性と握手をする夫さん。お腹の子に異常があるのであれば、それを認識したうえで自分で結論を出す。産まない決断にせよ、産む決断にせよ、自分で考える。日本以外の先進国でごく普通に与えられている「知る権利」を、夫さんは日本の女性にも渡していきたいと考えている 撮影/河合蘭