出生前診断というと、35歳以上の女性が選択して受ける新型出生前診断や羊水検査などを思う人が多いかもしれない。しかし進歩が著しいいまの医学では、通常の診察で出生前に胎児の先天性疾患の可能性を察知するケースが増えている。つまり、出生前診断は実はすべての妊婦に深く関わっているのだ。

ジャーナリストの河合蘭さんは、著書『出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』で「科学ジャーナリスト賞2016」を受賞している。長く出産の現場と医療の現場を取材し続けてきた河合さんは、医療の進歩とともに「母たちの選択肢」や「自分で決めること」がないがしろにされがちな現状も多く目にしてきた。そこで最新の現場から、様々な母たちの姿と、彼女たちに寄り添う医療従事者を紹介していく。

今回は日本中からこの医師の出生前診断を仰ぎにくるという大阪のクリニックを紹介する。そこでは、日本以外の先進国で普通にある検査に加え、世界有数の技術を備えていた。そしてその理由も明確に存在していた。

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分娩も健診もないクリニック

出生前診断の専門施設「クリフム夫律子マタニティクリニック」では、分娩や妊婦健診、婦人科の診療、また人工妊娠中絶も一切扱わない。でも診察が始まる前から、このクリニックにはさまざまな女性が多くは夫と一緒に真剣な面持ちでやって来る。
高齢で妊娠したので「お腹の子に障害があるかどうか知りたい」と言う人もいるし、一方では、かかりつけ医による一般的な超音波検査で心配なことを言われ、もっと詳しいことを知りたいと遠方からやって来る人も多い。

その朝、私は妊娠中期の「胎児ドック」に立ち会わせていただいた。「クリフム」の検査の基本は、最初に、最新の2D/3D/4Dエコーを駆使して詳しい超音波検査「胎児ドック」を行うこと。これは欧米で最もポピュラーな胎児の検査である。欧米では妊婦健診のたびにかかりつけ医が超音波検査をおこなうことはなく、超音波検査は、この時だけ会う専門家チームによって行う「出生前診断」のひとつという位置づけだ。

検査を受けに来たのは、お腹にダウン症の赤ちゃんがいることがわかっている女性だった。東京で妊娠初期に受けた新型出生前診断でダウン症がわかって、でも産むことを決心した女性が、はるばる東京からやって来て、赤ちゃんは無事に成長しているかどうかを見てもらおうとしていた。

「よろしくお願いします」

プローブを持つのは、ここの院長で、海外での講演や教育活動も多い夫律子(ぷ・りつこ)さん。始まるとまもなく、大型テレビの大画面に、手際よく、赤ちゃんの微笑を浮かべた顔がアップで描出された。 その、あまりのリアルさに、女性と、付き添ってきた家族たちから「おお」と歓声が上がった。

撮影/河合蘭

でも、顔を見るだけなら、精密さの違いはあるものの、今は多くの産婦人科で可能だ。夫さんの診察の真骨頂は、その先にある。胎児の全身を脳、心臓、その他の内臓や骨、血管とそこを流れる血流の方向、速度に至るまで徹底的に見ていく