乙武氏が体験した「すごい義手」

その後の3人の行動は迅速だった。そろって会社を辞めると「イクシー(exiii)」を起業し、ハンディの次世代モデルの開発を目指すことにした。

やや使いづらい筋電義手から、腕に力を入れたときの筋肉のふくらみを察知して動く、より操作が簡単な電動義手に切り替え、ハンディに続く次世代モデル「ハックベリー(HACKberry)」を完成させた。義手のデザインファイルとソースコード(プログラムの設計図)をすべてオープンソース化し、世界中の誰もが利用できるようにするという画期的な試みも、ハックベリーの評価を高めた。

じつは私も以前に彼らのラボを訪ね、このハックベリーを体験したことがある。

私の短い腕でも、ぎゅっと力を込めると義手の指が折れ曲がる。もちろん使いこなすことは難しく、ポーチのファスナーを開ける作業では引き手の部分がなかなかつかめなかった。しかし、ほんの少し力を入れるだけで指先が動く感覚は、なんとなく覚えている幼いころの義手の使い勝手とは大違いだ。短い腕の延長線上に義手がある感覚がうれしくて、ファスナーを一センチほど開けたときは、年甲斐もなくはしゃいでしまった。

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海外で握手攻めに

2018年10月、小西氏はイクシーから独立して「イクシーデザイン(exiii design)」を立ち上げた。わが家を訪ねてくれたのは、ちょうどそのタイミングということになる。

森川さんはいま、大阪市内の病院で事務の仕事をしている。仕事では重量にも耐えられる筋電義手、プライベートでは軽くて負担の小さいハックベリーと使い分けて暮らしている。「手足を切断しようかどうしようかと悩んでいる人に、切断してもこんなふうに元気になれるんだと思ってもらえればうれしいです」と語り、義手ユーザーとしてイベントに参加したり、人前で話したりする機会も少なくないという。

小西氏には森川さんのことで、忘れられない場面がある。

米国テキサス州オースティンで開催された最先端テクノロジーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」に、イクシーが参加したときのことだ。メカニックな義手をつけた森川さんのまわりに人だかりができた。やがてそれは森川さんに握手を求める人の一本の列となり、そんな状態が会期中の四日間ずっと続いたというのだ。

握手攻めにあう森川氏(写真左)写真提供/小西哲哉

「ただのおっさんなのに、義手をしてると握手してって言われる。めっちゃうれしいわ」

そう感想を語った森川さん、これからも笑顔で世界中を駆け回ることだろう。