会談するロウハニ大統領と安倍総理〔PHOTO〕Gettyimages

安倍総理イラン訪問は失敗か? 元外交官がアメリカ・イラン関係を読む

【ゼロからわかる】米国・イラン問題
安倍晋三総理がイランを訪問した直後、日本籍のタンカーがUAE沖で攻撃を受けた。この攻撃をどう読み解けばいいのか混乱が続くが、それを考えるためには、アメリカ・イラン関係がどのような経緯を辿ってきたのかを振り返る必要がある。在イエメン大使などを歴任した元外交官で、中東情勢に詳しく「中東の窓」を運営する野口雅昭氏が解説する。

緊迫する湾岸情勢

このところペルシャ湾(地理学上はペルシャ湾だが、アラブ諸国の多くはアラビア湾と呼び、国際政治上では中立的な観点から、単に湾岸と呼んでいるので、以下湾岸とします)をはさみ、米国とイランの緊張が高まっていたところ、安倍総理がテヘランを訪問し、ハメネイ最高指導者とも会談することとなり(現地時間6月13日)、両者の調停をするのではないか、との期待が高まっていました。

しかし、総理のテヘラン滞在中に、UAE沖で我が国のタンカーを含む2隻のタンカーが攻撃されるなどの事件が発生しました。緊張が一挙に高まり、湾岸向けの船舶保険も高騰している模様です。

米国はこの事件に関し、即座に国務長官が「イランが関与していることは種々の情報から間違いない」とし、トランプ大統領も同様の見方を示した上で、この問題を安保理に提起しました。これに対して、イラン政府は「何の関係もない」と関与を全面否定し、米国と同様の見解を英外相が示したことに対して、テヘランの英国大使を招致し、抗議しました。

他方国連の事務総長は、公正で透明な国際調査が必要との見解を表明しています。

要するに、事件は肝心の誰の仕業か? という疑問から始まって、いまだ謎の多い事件ですが、何しろ事件が発生したのは、世界の原油の多くが通る海域です。

さらに、米空母機動部隊が派遣され、多数のイラン革命防衛隊(イランの精鋭部隊)などの舟艇とにらみ合っているホルムズ海峡を巡る事件ですから、今後の状況の進展いかんによっては、原油の安定供給に大きな影響が出るのみならず、武力衝突から、湾岸、中東、ひいては国際社会の安定を大きく損なう可能性もあり得ると見られます。

我が国としても、総理がテヘランを訪問中の事件ですから、他人事としてみているわけにもいかないと思います。しかし上に書いた通り、現在ではいまだ必ずしも十分な情報があるとは言えないうえに、現地情勢も流動的な模様ですので、この小論がお目に触れる時には、すでに新しい状況が生まれている可能性もありそうです。

そこで、手持ちの材料をもとに、事件の背景、安倍訪問とイラン・米国関係の連関、イランのアラビア半島における活動などに関し、まとめておきたいと思います。

 

「6か国合意」から制裁へ

この事件の背景を探っていくと、基本的には1979年のイランのホメイニ革命にまでさかのぼりますが(イランが米国やイスラエルに対して抱く極度の敵愾心・警戒心、そしてサウディなどアラブ諸国との対立抗争)、そこまで行くと大きすぎる問題になるので、問題をイランの核開発問題と6か国核合意(2015年締結)以降に絞ります。

今世紀に入り(2000年代前半)、イランの核兵器開発問題が、核兵器の不拡散の立場から国際社会の重大な関心事となりました。しかし当時のアハマディネジャード政権は、イランは核の平和利用の権利を有していると強く反発し、ウランの濃縮を進めるなど国際社会の懸念に反発する姿勢をとってきました。