円高懸念、再び…日米欧「緩和バトル」のいまとこれからの正しい見方

日銀・黒田総裁に焦りあり
唐鎌 大輔 プロフィール

ECBが懸念する「副作用」

もっとも「不測の事態に向けて行動する準備(the readiness to act in case of adverse contingencies)」は6月7日の政策理事会でドラギECB総裁が強調した論点でもあり、上述した一連の発言はこれらを確認しただけとも言える。

しかし、ここまで立て続けに出てくると次回会合に向けた露払いではないかとも思いたくもなる。やはり望まぬ通貨高への懸念をECBは抱いており、FRBが(利下げに)動くのであれば、これに対抗して動くという意思表示と見るべきなのではないか。

ECBのドラギ総裁(左)とFRBのパウエル議長〔photo〕gettyimages

しかし、25bpsずつの利下げを計9回行うことができるFRBと、既に政策金利を▲0.40%まで引き下げ、それが域内金融機関にダメージをもたらしているECBとでは繰り出せるカードの枚数が全く違う。少なくとも本当に通貨安競争(ないし戦争)を想定した場合、金利というツールだけではまず勝ち目はない(下記図)。

そもそもECBが▲0.40%の副作用を懸念しているからこそ、4月政策理事会の前にマイナス金利適用残高の階層化(tiering)観測が浮上したのであろうし、実際同月の声明文には「マイナス金利の経済に対する望ましい効果を維持するため、銀行の金融仲介機能に対する潜在的な副作用が存在するのであれば、その対処策が必要かどうか検討する」と副作用を配慮する文言が入った。

 

そこからわずか2か月間で「また利下げするかも」と口にし始めている現状は、政策理事会の混乱状況をはっきり表しているように思える。いずれにせよ、真正面から金利の引き下げ競争に付き合うことは、ECBにとって域内金融システムひいては政策波及経路を毀損しかねない自傷行為だろう。