僧侶と女性、二つの道の狭間で
目指す道がある一方で、一人の“女性”としての悩みもある。
ニューハーフであるかとうは、睾丸のみを摘出し、乳房を形成して女性ホルモンを投与している状態で、その体はまだ完全な女性ではない。でも、性自認としては女性。だからこそ、揺れる想いがあるという。
「交際している男性がいるのですが、相手の親御さんにはニューハーフであることを言えておらず、お経を唱えすぎて声帯が潰れた尼さん、ということになっているんです。ご高齢なので、入籍も考えているのですが……」
入籍するためには完全に性転換をし、戸籍変更をしなくてはならない。だが、性転換手術を受けないのは、経済的な問題のほかにも、かとうの僧侶としての信念やあり方にかかわる重大な事柄があるからだという。
かとうの元には、実にさまざまな問題を抱えた人が集まってくる。
「右翼団体に所属して、街宣車に乗る男が訪ねてきたことがありました。彼には、『そんな格好をしていたら国のイメージが悪くなる。この国を本当に思うのであれば、ちゃんとスーツを着て世のため人のためになることをしなさい』と説教しました」
またある時、「“除霊”の仕方を教えてほしい」と訪ねてきた20代の男がいた。親切に説明してやると、「手印ごときで悪霊が退散するわけがない」などと言って去っていったかと思えば、その男は翌日、かとうが開いている居合剣術教室に現れ、今度は真剣で斬りかかってきたという。

間一髪でかわしたかとうに男は、「この程度の攻撃をかわせなければ、師匠になる資格はない」と言い放ったという。
「こんな子を野放しにするわけにはいかないでしょう。それで向き合う覚悟を決めて、更生への道のりが始まりました」
結果、男は大学で僧侶を目指すまで立ち直ることができた。しかしもともと精神疾患を抱え、社会生活が不得手だったため一筋縄ではいかなかった。
「風呂に入る習慣がないので、月に1、2回は風呂屋に連れて行ってた時期がありました。洗うと身体中の吹き出物が潰れて膿が出るので、絞り出して消毒薬を塗っては絆創膏を貼って……そうやっているうちに、信用してくれるようになってね。結局坊さんにはなれなかったけど、故郷に帰って普通の生活をしているようです」