2019.06.19
# 戦争

たった2日で3000人以上が戦死したマリアナ沖海戦の悲劇

からくも生き残った搭乗員の怒りの証言
神立 尚紀 プロフィール

戦況を自軍に都合よくとらえた、独善的な作戦

聯合艦隊は、空母「大鳳」「瑞鶴」「翔鶴」「隼鷹」「飛鷹」「龍鳳」「千歳」「千代田」「瑞鳳」の9隻を基幹とする第一機動艦隊(機動部隊。司令長官・小澤治三郎中将)を編成し、これと基地航空部隊である第一航空艦隊(一航艦)とで、米機動部隊と中部太平洋上で本格的な決戦を行い、退勢を一挙に挽回しようと画策した。この作戦は「あ」号作戦と呼ばれる。

 

掛け声こそ勇ましいが、機動部隊も一航艦も、その実態は心もとないものだった。

一航艦は、2月のトラック空襲以来の米機動部隊との戦闘で戦力を消耗し、飛行機は配備予定の3分の1にも満たない530機しか揃っていない。しかもベテラン搭乗員の多くをすでに失い、補充された搭乗員の多くは、練習航空隊を出て短期間の訓練を受けただけの初心者だった。

機動部隊も、似たような状況である。「大鳳」「瑞鶴」「翔鶴」からなる第一航空戦隊(一航戦)に搭載される第六〇一海軍航空隊(六〇一空)は、早い時期から猛訓練を重ねて開戦時に劣らない技倆をもつ搭乗員を揃えていたものの、「隼鷹」「飛鷹」「龍鳳」の第二航空戦隊(二航戦)に搭載される六五二空、「千歳」「千代田」「瑞鳳」の第三航空戦隊(三航戦)に搭載される六五三空の練度には不安があった。

六五三空飛行長として「千歳」に乗艦していた進藤三郎さん(当時少佐)は、

「六五三空の零戦隊は、飛行隊長・中川健二大尉をのぞく士官搭乗員10名全員が、飛行学生卒業後半年未満で実戦経験がありません。新人搭乗員に着艦訓練をさせるたびに、寿命が縮む思いをしました。5月中旬、燃料を求めて産油地に近いタウイタウイ泊地(ボルネオ島東北端)に集結し、機動部隊の合同訓練を実施する予定だったのが、無風状態が続いて飛行機を発艦させるために必要な風力が得られず、泊地の外では米軍の潜水艦が出没していることもあって、満足な訓練ができなかったんです」

と回想する。海戦前の訓練期間中に、事故で失われた搭乗員は、防衛庁防衛研修所戦史部編纂『戦史叢書 マリアナ沖海戦』によると66名におよんでいた。

マリアナ沖海戦を控えた第三航空戦隊・第六五三海軍航空隊の搭乗員たち。空母「千歳」飛行甲板で。2列め右から6人めが飛行長・進藤三郎少佐。ここに写っている若い搭乗員のほとんどがマリアナ沖海戦で戦死した
空母「千歳」飛行甲板上の零戦五二型

「あ」号作戦では、日本機の長い航続力を生かして敵艦上機の攻撃圏外から攻撃隊を発進させる「アウトレンジ戦法」をとることになっていたが、肝心の搭乗員の練度がこれでは、そう都合よく戦いが運べるはずがない。聯合艦隊司令部が策定した「『あ』号作戦要領」には、

<決戰ニ於テ敵ニ痛撃ヲ與フルヤ機ヲ逸セズ追撃戰ニ移行シ>

との一文があるが、あまりに戦況を自軍に都合よくとらえた、独善的な作戦だったというほかない。

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