旅好きセレクターによる、旅へと誘う本をご紹介! 今回は、料理家の谷尻直子さんに選書してもらいました。

読むことで旅に出られる本

今から20年前、ヨーロッパへ1年弱の一人旅に出て以来、音楽と本と飛行機は、私の友達だ。旅先のプールサイドで本を読むのも素敵だが、今回は“読むことで旅に出られる”3冊を紹介したい。

猟師の肉は腐らない
小泉武夫 著/新潮文庫(2017)
福島の八溝山地で自給自足の暮らしを送る、猟師・義っしゃん。その豊かな食生活の物語。著者の発酵学、醸造学の知識が生きている。

『猟師の肉は腐らない』は発酵食に精通する小泉武夫さんの著書。山奥で犬と暮らす猟師、義っしゃんが主人公の物語だ。山で生き抜くためのリアルな保存食や、自然との共存の仕方にも惹かれるが、なんと言ってもズーズー弁なのが、宮城育ちの祖母と長く暮らした私には心地良い。山の日常は、私が送る都会の日常とは異なり、サバイバルゲームの様。「日常」とは自分の選択なんだと感じたりする。

停電の夜に
ジュンパ・ラヒリ著/新潮文庫(2003)
人気ベンガル人小説家のデビュー短編集。家族や夫婦など、様々な人間関係に存在するすれ違いを、美しい筆致で描いた9つの物語。

『停電の夜に』を書いたジュンパ・ラヒリは、英国生まれのベンガル人女性小説家。以下は特にお気に入りの一節。「ピーマンのマリネはローズマリーを添えた自家製だし、チャツネはトマトやプルーンを日曜日にぐつぐつ煮込んだものだった」。描写からスパイスの香りが漂ってきて、“食の旅”へと誘われてしまう。

不道徳教育講座
三島由紀夫 著/角川文庫(1967)
人間が持つ悪の志向は、抑圧するのではなく、陽性の行為に置き換えればいい。そんな三島的逆説を展開するユーモラスなエッセイ。

『不道徳教育講座』は若い頃に友人のススメで読んだ一冊。目次には魅力的なタイトル。「約束を守るなかれ」「人の恩を忘れるべし」「大いにうそをつくべし」。これだけで心掴まれる。古くさい表現もあるが、新しい視点もくれ、広い意味で“時代を旅できる”本だと思う。

飛行機で降り立つ未知の場所も、本で飛び立つ未知への旅も、どちらも未来への視点を研ぎ澄ますための素晴らしい手段だナ。

PROFILE

谷尻直子 Naoko Tanijiri
料理家。〈HITOTEMA〉主宰。ファッションスタイリストを経て、現職。初の著書『HITOTEMAのひとてま』が主婦の友社より発売中。

●情報は、2019年6月現在のものです。
Photo:Toru Oshima Edit:Yuka Uchida