「俺を金の亡者だと思うか?」証券マンが垣間見た、異形の投資家の影

東京マネー戦記【14】2009年初夏
森 将人 プロフィール

金より大事なものなんて…

笹井の出身は、N証券という大手証券の一角だった。大学を卒業と同時に就職したが、1年も経たずに破綻したので、引き継がれた外資系証券に移ることになった。

一緒に移った社員の多くは、数年の間に辞めていったという。笹井が転職したのは、ほとんど最後だった。会社に忠誠心を示したかったわけではない。すぐに移っていくのが節操なく思えただけだった。

 

長く働きたいという願いから運用機関を希望したが、アセットマネジメント会社はすでに新規採用をしていなかった。拾ってくれたのが、生命保険会社だった。リスク管理担当としての入社だったが、しばらくして資金運用チームに異動になった。

会社は助けてくれない。自分の身は、自分で守らなければならない。そんな経験則が笹井の価値観の根本にあった。また笹井と話して強く感じたのは、自分を肯定してくれる存在の必要性だった。

「俺のこと、金の亡者だと思ってるだろ?」

「そんなこと思ってませんよ」

「正直にいってくれていいんだ。みんなそう思ってるよ。でも金より大事なものなんて、世のなかにあると思うか? 金の価値がわかってるからこそ、持ってない人間は持ってる人間に敬意を示すんだ。こんな荒れた社会ではなおさら、金こそが唯一目に見える価値観になる」

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ぼくは話を聞きながら、以前から感じていた疑問をぶつけた。

「N証券の方とは、今でもよく会われるんですか?」

「一緒に苦しい時期を過ごした連中だからな」

笹井は否定しなかった。親密な証券会社のいくつかは、破綻したN証券の出身者が営業担当を務めている。この日の会食の一番の収穫は、笹井という人間の内面を垣間見ることができたことだった。そこには自分の過去を引きずっている男の姿があった。