「俺を金の亡者だと思うか?」証券マンが垣間見た、異形の投資家の影

東京マネー戦記【14】2009年初夏
森 将人 プロフィール

プライベートなつきあい

笹井を誘ったのは、6月下旬のことだった。アポイントの日程だけ先に確保する予定だったが、どこに行くかわからないと予定は入れない主義だという。ぼくは事業法人との取引経験が長い篠塚部長に訊いて、店のアタリをつけることにした。

「無難なのは寿司かフレンチだな。中華もいいが、皿がわかれてないと嫌がる人が多い。聞いてると、ワインにこだわりがありそうだな」

「好きだと思います。たまに会話で出てきますから」

「じゃあ、フレンチのほうがいいか。珍しいワインでも飲ませておけば、満足するだろ」

篠塚は店のカードをいくつか選んで、デスクに置いて説明した。

「でも大丈夫か。こんな店、経費で落ちないぞ」

「わかってます。プライベートな食事ですから」

「だったら、負担は少ないほうがいいんじゃないか。安くておいしい店はいくらでもある」

「笹井が気に入らないと思います。店のランクで忠誠心を見きわめるんです。自分の思い通りになるとわからない限り、腹を割って話さないタイプです」

 

「そこまでこだわるべき相手か?」

「あの投資家しか、まともな金額で勝負できる投資家はいませんから。どうしても稼働させたいんです」

「そこまでいうなら反対しないが、無理はするなよ」

「無理するほど金はありませんから、心配していただかなくても大丈夫です」

篠塚は笑うと、1万円札を何枚か財布から取り出した。

「やめてください。これはぼくのプライベートなつき合いですから」

「仕事に活かそうとしてるんだろ。無視するわけにはいかないよ。俺と3人で行く予定だったことにしてくれ」

強引にぼくのYシャツのポケットに金をねじ込むと、篠塚はモニターに身体を戻した。