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「俺を金の亡者だと思うか?」証券マンが垣間見た、異形の投資家の影

東京マネー戦記【14】2009年初夏

リーマンショック直後の冷え込んだマーケットで、ひとり気を吐く男がいた。業界で知らぬ者はいない、その派手な生活と仕事ぶり。証券ディーラーの「ぼく」は、なんとか彼と渡り合うべく知恵を絞るが……。

最前線で戦う証券ディーラーたちの日々を描く「東京マネー戦記」第14回。

(監修/町田哲也

 

問題の男

瀕死のマーケットがふたたび動きはじめたのは、2009年のことだった。

前年のリーマンショックで、多くの投資家は損失を抱えて動けなくなっていた。政権交代の熱気で政治は新しいものを求めていたが、マーケットは冷静だった。余裕があるのは、過渡のリスクを取らない保守的な投資家ばかりだった。

ぼくが注目していたのは、ある中堅の生命保険会社だった。運用の規模がそこそこ大きく、リスク商品を購入する資金もある。

問題は、笹井俊之という担当者だった。こちらから連絡すると面倒臭そうに対応するが、電話しないと怒る。扱うのがむずかしかった。

「もう少し何とかならないの?」

新しく発行される社債の条件を決める、マーケティングをしていたときのことだ。

笹井はたいてい運営方針を気にせずに、好きなタイミングでオーダーを入れてくる。このときは、電話でぼくが直接要望を受けていた。

「かなり交渉が進んでしまってますので、今から値段を変えるのはむずかしいと思います」

「いきなりこんなレベルをいわれても、買う気にならないよ」

「何度かお知らせしていたはずですが」

「そんなの変えればいいじゃない。全額買ってやったっていいんだ。君たちのやる気次第だよ」

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もともと売れ行きが良くなかった社債だ。調達を中止する可能性もあっただけに、笹井の言葉に気持ちが動いた。

「本当に買っていただけるんですか?」

「だからやる気次第だよ。買って欲しいんだろ? 業者だったら、どうすればいいかわかるだろ」

「そういわれましても……」

笹井が求めているものは、何となくわかっていた。しかしこれ以上踏み込めば、戻れなくなりそうで怖かった。