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「覚醒剤密輸入」警視庁組対5課が東大卒エリート官僚を逮捕するまで

端緒は一通の国際郵便だった

4月中旬のある日、米・ロサンゼルスから成田空港に一通の国際郵便が届いた。中には約500回分という大量の覚醒剤。すぐさま追尾を始めたのは、警視庁が誇る対薬物犯罪のエキスパートたちだった。

精鋭たちが動き出した

東京・江東区の東京メトロ「南砂町駅」から徒歩10分ほどの距離にある、日本郵便の東京国際郵便局。この建物の2階に東京税関の出張所があり、国際郵便の通関業務を行っている。

4月16日、この国際郵便局の『EMS(国際スピード郵便)・小包郵便課検査場』で、検査作業中の若手税関職員が、一通の不審な郵便物を発見した。

それは、前日15日にロサンゼルス空港から成田空港に到着したばかりのEMS便で、中には4月に発行されたばかりの『エルアビーゾマガジン』というスペイン語のファッション雑誌が1冊入っていた。税関職員は検査のため、郵便物を開封することが認められている。

雑誌を開くとビニール袋が袋とじのように張り付けられており、税関職員が袋の中を覗くと、多量の白い粉が入っていた――。

 

4月27日、警視庁は、経済産業省製造産業局自動車課の課長補佐で、キャリア職員の西田哲也被告(28歳)を麻薬特例法違反(規制薬物としての所持)の疑いで逮捕した。

国際郵便を使って、アメリカから覚醒剤約20g(末端価格約120万円)を密輸していた。5月24日には、覚せい剤取締法違反(輸入、使用)などの罪で起訴された。

改元間近の逮捕劇であり、その少し前には池袋での暴走事故、直後には秋篠宮悠仁さまの机にナイフを置いた男が逮捕されるなど、大きな事件が相次いで発生。

そのため事件の衝撃度に比して、報道量は決して多いとは言えなかった。しかし、その背後では、捜査員たちによる必死の秘匿捜査が行われていたのである。

4月16日、白い粉を発見した東京税関の職員らは、その場で簡易検査を実施する。粉が覚醒剤だと判明したため、翌17日、警視庁に通報した。

動いたのは、警視庁組織犯罪対策第5課、通称「組対5課」の捜査員たちだ。組対5課は桜田門に建つ警視庁本部の3階に拠点を持ち、薬物事件と銃器事件を捜査するセクションに分かれている。

元プロ野球選手の清原和博(51歳)や歌手のASKA(61歳)などを逮捕した、対薬物犯罪のエキスパート集団だ。

「今回の事件では、組対5課内の『薬物捜査係』、そして『薬物捜査指導係』が動員されたようです。

薬物捜査指導係は民間企業出身でインターネットに詳しいIT捜査官や、財務諸表の解析などもできる財務捜査官など、高い専門性を備えた捜査員を抱えているのが特徴です」『マル暴捜査』などの著書がある、ジャーナリストの今井良氏)

押収された覚醒剤は、平均的な使用法であれば、実に500回以上の使用量に相当する。EMS便の宛先は東京都足立区綾瀬のマンションの一室になっていた。

組対5課は、今回の密輸は個人使用目的ではなく、密売組織が関与している可能性が高いと判断。『クリーン・コントロールド・デリバリー』を実行して、犯人を炙り出すことに決めた。

「『クリーン・コントロールド・デリバリー』とは、発見した荷物の中の薬物を無害な白い粉などダミーにすり替えたうえで、犯罪組織の全貌をつかむ捜査手法。泳がせ捜査の一種です。

麻薬特例法により、中に実際の薬物が入っていなくても、容疑者が違法薬物と認識して荷物を受け取っていれば、逮捕することができます」(薬物捜査に詳しい、元警視庁刑事の吉川祐二氏)