フランス王家のひみつ なぜ名前が「ルイ」ばかりなのか?

「ルイ王朝」ブルボン朝の不思議
佐藤 賢一 プロフィール

出生の秘密

さて、そうすると、本当の父親は誰か。有力候補として、かねて名前が挙げられるのが、マザランである。

 

リシュリューを継いだ宰相だが、元の名前が「ジューリオ・マッツァリーノ」というイタリア人で、ローマ教皇庁に勤めていた。この人物が1641年にフランスに呼ばれて、リシュリューに自分の後継者と指名されたのだ。よほどの切れ者だったのだろうと解釈に努めるのだが、やはり唐突感が否めない。

1642年にリシュリューが死ぬと、予定通り宰相になり、ほどなくルイ13世も死んだので、今度は新王ルイ14世の摂政となったアンヌ・ドートリッシュに仕えたが、この前王妃にも嫌がられなかった。それどころか、じき公然と愛人関係になる。なるというより、なっていたものを隠さなくなっただけではないか。

宰相抜擢の真の理由もそれなのではないか。そう勘繰られるのは、マザランがバッキンガム公爵にそっくりだったからである。デュマの『三銃士』にも登場するイギリスの宰相、かつてアンヌ・ドートリッシュと噂になった男である。

バッキンガム公爵(左)とマザラン(右) 似ているかも photo by GettyImages

顔が瓜ふたつのイタリア人をみつけて、リシュリューはこれだと膝を叩いたというのだ。つまりは次の宰相として、これだというより、次の王の父親として、これならと……。

懐妊当時はイタリアにいた、ありえないとか、それこそ一夜あればいい話だとか、いや、やはりルイ14世の実の父親は別にいるのだとか、これにも侃侃諤諤の論争があるのだが、さておきルイ14世のほうである。

不自然な話ばかりで、当時から疑念を向けられないではなかったろう。余人に勘繰られる以前に、自身が不安に駆られないではいられない。ルイ13世の血を引いてないなら、フランス王でいられなくなるからだ。あるいは母親のアンヌ・ドートリッシュから、またはマザランから、真相を聞かされていたかもしれない。

いずれにせよ、平静ではいられない。ルイ13世の血筋でないなどと、疑われるわけにはいかない。また自分の子孫についても、疑わせてはならない。皆が正統なフランス王、ブルボン朝の血を引くルイ13世の末裔、つまりは皆がルイにならなければならない。

かくてブルボン朝は、ルイ、ルイ、ルイになる。ルイでないわけがない、ルイでないものなどいないと、痛々しいほどのアピール──要するに、それは危機感の裏返しだったのだ。

ここで正史に戻れば、ルイ14世は「太陽王」と呼ばれるド派手な王だった。

なかんずく豪華絢爛なヴェルサイユ宮殿を建てたことは有名である。その目にみえる文化的求心性こそブルボン朝の真骨頂、フランス王家の支配を次の段階に昇華させた偉業であるが、すぎるくらいの自己装飾、フランス王たることを執拗なくらいに表現したというのも、その正統性を疑われまいとする懸命な努力だったかも──と秘史的に解釈するほど、通りいっぺんの正史まで説得力を増すように思うのは私だけか。