ヒット商品を次々と生み出す「N1マーケティング」の極意

一人の顧客の意見をとことんまで聞く
現代ビジネス編集部

目新しいことではない

さて、お気づきの方もいるでしょうが、「N1分析」という言葉は目新しいかもしれませんが、顧客起点の発想自体は決して特別なものではありません。

創業者や画期的なビジネスを考案した人は、意識しなくても必ず「N1分析」を実践しています。それは、彼らの作り出したものは、そもそも自分が欲しい、これは絶対社会に受け入れられる、必要とされる、という強い思い込みが根底にあり、それを形にすることからビジネスがスタートしているからです。

ひとりの顧客に立脚する「N1分析」は、統計学に基づくマーケティングを否定していると感じる人もいるかもしれません。私自身、先ほども申し上げた通り、これまで既存のあらゆる手法を勉強し、ビジネスの場面で試してきました。

そうした経験から言えば、統計学を否定するつもりはないのですが、どちらが重要かと聞かれれば「N1分析」だと今は考えています。統計学をどれだけ駆使しても、そこから新しい価値を生み出したという例をほとんど見たことがないからです。

統計分析は「なぜそれがヒットしたか」を導くことはできても、「次にどんな手を打てば新しい市場(ユーザー)を開拓できるか」を知るにはあまり適していないと考えています。例えばヒットした商品がなぜ売れたのか分析すると、意外な結果が見つかることも多い。

しかし、そこから導き出された結果に再現性があるのかどうかは別問題。類似のものの再現はできるかもしれないが、なぜそのヒット商品を作ろうと思ったのかは、いくら分析してもわからない。つまり、いつまでたっても模倣どまりなのです。

もっとわかりやすく言えば、一人のためにベストのソリューションを考えるのと、見ず知らずの1万人を満足させる方法、どちらが顧客の心に届くかは歴然でしょう。大切なのは、両者をどう結びつけるか。そこを追求した結果としてたどり着いたのが現在の「N1」分析をベースにしたマーケティングのフレームワークというわけです。

今、こうして自信を持って言えるのは、このマーケティング手法で結果を出してきたからなのですが、ここに至るまでには散々失敗を繰り返してきましたことは、明かしておいた方がよいでしょう。特にP&G時代には、強烈な失敗を何度もやってしまいました。今、こうして偉そうに喋れているのは、失敗してもチャンスをくれた先輩や上司がいたからであり、そのことは心から感謝しています。

 

あらゆるビジネスで応用可能

「N1分析」の効果についてはある程度理解していただけたでしょうか。中には、それはコンシューマ向けの商品だから機能したのではないか。自分の業界ではどうだろうか。そんな疑問を持つ人もいるかもしれません。

結論から言えば、「N1分析」どんな業界でも使えます。B2CはもちろんB2Bでも応用可能です。

あるヘアサロン向けにヘアケア商品を販売していた時のことです。そこには、ロイヤルカスタマーを掴んでいる営業マンがいました。彼の売り方を調べたら、ほかの営業マンにはない特徴があることが分かりました。

営業で訪問すると必ずその日のうちに連絡を入れる。数日後に改めてメールを入れる。一週間に一度は営業先に「近くに来る用があったので寄りました」と顔を出す。しかもその際必ず商品に対するフィードバックを欠かさず入手し、その結果に応じてその後の提案を修正していた……これで顧客の信頼を掴んでいたのです。

つまり、B2Bと言ってもその先にCがいるわけで、彼はヘアサロンの担当者を通じてカスタマーのインタビューをしていた。この営業マンがやっていたことはまさに「N1分析」そのもの。その意味で「N1分析」はあらゆるビジネスで万能と言っていいでしょう。

おそらくあなたは、仕事以外の場面では、自分にとって大切な誰かを幸せにするために、その人の話を聞いて、その人のことを知り、その人の望みを叶えるために行動しているはずです。そして、大切な人が幸せにすることを徹底的に考えることで、あなた自身もハッピーになる。いわば、あなたは普段の生活の中で知らず知らず「N1分析」を行っているのです。

それを、ビジネスの場に応用すること。それが「顧客視点マーケティング」の第一歩です。あなたの手掛ける商品やサービスを待っている人。まずはその人たちの声に、じっくり耳を傾けてみてください。きっと、いままで気づかなかった何かに気づくはずです。

(取材・文/平原悟、撮影/村上庄吾)

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