ヒット商品を次々と生み出す「N1マーケティング」の極意

一人の顧客の意見をとことんまで聞く
現代ビジネス編集部 プロフィール

「肌ラボ」大ヒットの秘密

私自身が「N1分析」の有効性を確信したのは、ロート時代に「肌ラボ」を担当した時でした。ロート製薬が販売するスキンケアのシリーズ商品で、いまでこそ100億円超の売上を上げる、同社を代表する商品のひとつになっていますが、私が担当に加わった当時の売り上げは20億円程度と少額でした。

もっと売上を伸ばすにはどうすればいいんだろう…と頭を悩ませていたのですが、幅広くユーザーに尋ねても、「いい商品だけど、ここが誇れるというほどのものはない」という答えが圧倒的に多い。中にはパッケージはお洒落じゃない」「ベタベタするのが気になる」というネガティブな意見も多く出ました。確かに、肌ラボは他の化粧水に比べて、粘着感が強い製品でしたが、これに違和感を抱くユーザーもいたようです。

しかし、そんな中で、ある熱心なユーザーがこんなことを言ってくれたんです。

「このベタベタこそが、肌ラボの最大の魅力じゃないですか」

それを聞いた瞬間、ここだ!とひらめきました。それまでは化粧水は水にアルコールを入れたものが主流で、すぐ浸透するけど肌には決していいものではなかった。それに比べて「肌ラボ」は、本当に肌にいいものを作りたいということがコンセプトで、そのためにヒアルロン酸をたっぷり含んでいる。それがベタベタの理由なのですが、このユーザーの声を聞いたときに、これは欠点ではなく、最大のアピールポイントだと気づいたんです。

最も「肌ラボ」を愛してくれているユーザーが「ここがいい」と言ってくれているのだから、その魅力をもっと強化しよう。そこをもっとユーザーに伝えていこう――そう思って、ユーザーとのコミュニケーションのやり方を変えて、「このベタベタは、ヒアルロン酸が豊富に含まれている証拠なんだ」とアピールするようにした。すると、一気に消費者の見方が変わりました。

それが「肌ラボ」ヒットの原動力のひとつとなったのです。

 

世の中には本当に数多くのマーケティング方法があります。私自身、今も昔も古典はもちろん、新たなマーケティング理論が登場すると、それを研究して、自分の頭の中に入れる努力は続けています。しかしこの「肌ラボ」の経験が、私の考え方を変えました。ひとりのユーザーに徹底的に向き合って、話を聞くことこそが、マーケティングの基本であり、また最善の手段である、ということです。

ロート時代の成功体験をもとに、スマートニュースでもN1分析を行いました。その対象は様々です。日ごろからスマートニュースを利用しているユーザーの方に話を聞くことはもちろん、ほとんど使ったことがないという方にも丁寧にヒアリングを行いました。それだけではありません。私の家族にも話を聞きましたし、仕事やプライベートで会う人にはすべて話を聞きました。

使っている人には、どこが良くて使っているのか、使っていない人はなぜ使わないのか、存在を知らないという人には、他にどんなニュースアプリを使っているのか……そういう基礎的なことを何度も何度も尋ねました。

「N1分析」などというと、大げさに聞こえますが、突き詰めて言えば、丁寧に話を聞くこと、なんです。酒好きの友達と飲めば、特定のお酒を売るためのアイデアの元がいくらでもつかめます。工作機械の売り方を考えるなら、それを使う人や周辺で働く、いわば関係者の話を聞く必要がありますが、スマホアプリなどコンシューマを相手にする商品やサービスなら、誰に話を聞いても参考になるでしょう。

ただし、そこで得られた答えやデータを分析する方法は、もう少し専門的です。ここを知りたいという方は、ぜひ私が上梓した『たった一人の分析から事業は成長する 実践・顧客起点マーケティング』をお読みいただければと思います。データの集め方から分析の仕方まで、具体的な実践方法に関して余すことなく著しましたので、あなたのビジネスのなんらかの役に立つはずだと自負しています。