ヒット商品を次々と生み出す「N1マーケティング」の極意

一人の顧客の意見をとことんまで聞く

「P&G出身、ロート製薬にて化粧水『肌ラボ』を本数ベースで日本No.1へ」「スマートニュースではiPhoneアプリランキング100位圏外から1年でNo.1へ」

――独自のマーケティング手法を用いて、数々の製品やサービスをヒットへと導いた西口一希氏。現在はスマートニュースのマーケティング担当執行役員を務める氏が、その手法を明かした著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践・顧客起点マーケティング』が話題だ。

数千、数万というまとまった数のユーザーの意見を集めることがマーケティングの基本と思われがちだが、「たった一人のユーザーの声が、そのサービスに足りないものや伸ばすべきところの本質を言い当てていることが多い。その声に耳を傾けるべきだ」という西口氏に、N1分析と呼ばれるマーケティング手法の極意を尋ねた。

スマートニュースが躍進した理由

はじめまして。まずは自己紹介させてください。

私の名前は西口一希。2017年4月からニュースアプリの「スマートニュース」で、マーケティング担当の執行役員を務めています。

新卒で入社したP&Gにはじまり、ロート製薬、ロクシタンと、ビジネスマンとしての大部分をマーケティング畑で過ごしてきました。

今ではロート製薬を代表する商品となっている「肌ラボ」は、年間売り上げを20億円から最大で160億円に拡大させることが出来ました。日本法人の代表をつとめたフランス発のコスメブランド「ロクシタン」でも、それまで4年連続で減少していた利益の落ち込みに歯止めをかけ、2年間で過去最高利益を達成することができました。

その後、ご縁をいただいてスマートニュースのマーケティングを担当することになりました。これまでやってきた仕事は物理的な製品を顧客に届けるビジネスでしたから、未経験のデジタルの世界に飛び込むことは私にとって大きな挑戦でした。それでもやってみようと思った理由の一つは、これまでに培ってきたマーケティング手法がデジタルメディアの世界でも通用することを証明してみたかったからです。

 

結論から言えば、これまでの2年間でスマートニュースでも一定以上の成果を上げることができたと自負しています。

私が参画する直前のスマートニュースは、競合のニュースアプリの登場などにより、やや成長が鈍化していましたが、積極的なマーケティング投資が功を奏し、2018年6月には、それまで100位圏外だったアプリランキングでトップを獲得。19年1月には世界累計で4000万ダウンロードを達成、現在は国内最大のニュースアプリとしてのポジションをキープしています。

こうした実績を出すに至るまでには、様々なマーケティング手法を繰りかえし試してきました。それこそ世の中にあるマーケティング関連の書籍はほぼ読破していると言ってもいいかもしれませんが、ついにこれだ、と納得できる方法にたどり着きました。

それが「N1分析」という手法です。スマートニュースの成功は、現状における「N1分析」の集大成と言っても過言ではないでしょう。

N1とはなにか

では「N1分析」とはどんな理論なのでしょうか。

一言で言えば、特定の顧客とじっくり話をして、その人が商品やサービスについて感じていること、望んでいるものを聞き出し、そこから新たな訴求方法や製品を生み出そうというものです。顧客が答えを持っている、ということを前提にしたマーケティングと言い換えてもいいでしょう。

1万人規模の不特定多数の顧客にネット上でアンケートを撒いて、その結果を統計的に分析する既存のマーケティングとは対極にあるもの、と言っていいかもしれません。

自社のサービスをとにかく愛してくれている人、あるいは反対に「サービス自体は知っているけど、あまり使ったことがなかった人」に、そのサービスのどこに魅力を感じてくれているのか、なぜサービスを使おうと思わなかったのか、を徹底的にヒアリングして、そのサービスの強み、足りないところ、もっと伸ばすべきところを見出す……それがN1分析なのです。

具体的にスマートニュースの事例をもとに、N1分析について理解していただければと思います。

「スマートニュース」は、鈴木健と浜本階生が2012年にローンチさせたニュースアプリです。様々なメディアのニュースが横断的に読めるアプリということで、開始当初から注目を集め、わりと早い時期に1000万ダウンロードを突破しましたが、後発のニュースアプリが続々登場して新鮮味が薄れたり、競合アプリとの競争が激しくなり、徐々に伸び悩む状態に陥っていました。私が参画したのはその2017年4月でした。

私に求められたの、マーケティングを徹底的に行って、いま、スマートニュースには何が足りていないのか、あるいはどこが強みで、どこを伸ばせばいいのかを明確にする、ということでした。

そこで、私はまずスマートニュースの潜在的ユーザーに対して「N1分析」を繰りかえし行いました。