湘南を舞台にした小説『幸福のパズル』が文庫化された、漫画家で小説家の折原みとさん。この小説は構想から4年の歳月をかけて2017年4月に小説家生活30周年記念作品として刊行した、ど直球の純愛小説だ。

週刊誌のドラマ座談会にも招かれるドラマフリークの折原さんは、作品を書くとき頭に実在の俳優をイメージしながら書いていたという。しかし一人だけ実在の人物が思いつかなかったのが、男性主人公の蓮見優斗だった。

そんな折原さんから「優斗にぴったり!」と担当編集のもとに興奮の連絡が来たのは、2018年11月上旬のこと。そう、『中学聖日記』でデビューしたばかりの岡田健史さんを見て、折原さんが連絡をしてきたのだった。その後、岡田さんはデビュー1年を立たずして初の写真集『鼓動』が大評判となっており、さすが目の付け所の良さは、ドラマファンを公言するだけある。

では、なぜそれほどまでに岡田健史さんなのだろうか。先日岡田さんにインタビューもした折原さんに改めて寄稿してもらった。

おもいきり直球の純愛小説

思いっきりドラマチックな恋愛小説を書いてみませんか?

始まりは、編集さんのそんなひと言だった。確か、2012年秋のことだ。

小説でヒットするのは、主にミステリーやファンタジー。恋愛小説が激減し、少女漫画やドラマの恋愛ものにしても、ベタでドラマチックな恋愛よりも、ライトなコメディやお洒落なラブストーリーが主流になりつつある頃だった。

「今どき、直球な恋愛小説は読者に求められているのだろうか?」という一抹の不安はあった。だが、私は案外天邪鬼な性格だ。みんなが同じ方向を向いていると逆らいたくなってくる。時流とは真逆のものにチャレンジしてみたくなった。

思いっきりストレートで、熱くて、ドラマチックな純愛小説を書いてみたい……!!

舞台は湘南の海辺の町、葉山にしようと決め、プロットは2012年の年末に一気に書き上げた。ドラマチックな恋愛ものといえば、目指すは昭和の大映ドラマのようなジェットコースターストーリーだ。主人公には次々と試練が振りかかり、事件が起こり、恋人同士はすれ違う。あれやこれやと設定やエピソードを盛り込み、ノリノリでプロットを書いたものの、他の仕事が入っていたため、執筆に取りかかれるのは1年ほど先になる。その間に、舞台となる葉山の町を取材し、気分を盛り上げていくことにした。

『幸福のパズル』に出てくる「ヒロさんの小屋」。実際のモデルの部屋から眺めた葉山の海 撮影/折原みと

実際に執筆に取りかかったのは、2013年の1月だ。当初は3ヵ月ほどで書き上げる予定だった。それまで、小説は1~2カ月、長くても3カ月で一気に書き上げてきたからだ。しかし、原稿用紙に向かって間もなく、その読みはかなり甘かったことに気がついた。ベタな設定や事件がてんこ盛りのドラマチックストーリーは、ヘタをするとリアリティのない夢物語になってしまう。この小説を成立させるためには、物語の舞台や人物、エピソードのディテールを丁寧に描くことが必要だと思った。そのためには、取材にも執筆にも、今までの何倍もの時間がかかるだろうと、書き始めてから気がついたのだ。