三菱地所、三井不動産、DeNA…話題の「自社株買い」が危険なワケ

株式市場に「死」をもたらす?
鏑木 邁 プロフィール

苦肉の策

今年度の日本の株式市場では、米中貿易摩擦が激化し世界経済の停滞感が増す一方、日本国内では消費増税とその後の財政政策、衆参同日選くらいしか独自の材料がない。

消費増税が実施され、衆参同日選も見送られることがほぼ確実となった今、日本企業が自社の経営努力によって株価を高め、株主に還元するという「正攻法」が通じにくい経営状況となっている。自社株買いは「アベノミクスによる株価上昇策によって手元資金が豊富にある企業の苦肉の策」(中堅証券)との見方が出るのも理解できる。

ただ、本場米国の自社株買いは、規模も性格も全く異なる。

 

アップルが4月末に発表した自社株買い発表額は約8兆円。1社で18年度の日本企業全体の実施額を上回っており、桁違いのスケールだ。

野村証券によると、米国企業の税引き利益に対する配当と自社株買いを合わせた総還元性向の割合は、8割を上回る。つまり、儲けをほとんどそのまま株主に返していることになる。

一方、日本企業は半分程度にとどまっており、残りの半分は内部留保となっている。この違いについて、外資系証券のストラテジストはこう解説する。

「まず、米国では株主ファーストが徹底しています。『企業は株主のモノ』なので、内部留保という形での『貯金』はきちんとした理由付けがないとまず認められず、ヘタをすると経営陣の更迭にもつながりかねません。ネットフリックスのように定額でキャッシュが回る高度情報サービス業の企業が多いことも、手元にキャッシュを置いておく必要性を低くしています。

米国では、自社株買いも吸収合併も『株を買う』という点では同じ行為と見なされますから、どんどん資金が動いて株式市場内の淘汰が進みます。しかし日本の場合、『吸収合併は悪』『とにかく企業はつぶしてはならない』という考えが根強いので、そうはならないのも大きな違いです。

製造業が強い日本の場合、設備投資のためのまとまったキャッシュが必要となるほか、解雇規制があるため、リーマンショック級の事態が起こった場合に備えて従業員に支払う給与を常に持っておかなければならない。動かせる資金がどうしても米国企業よりも少なくなるという構造的な要因もあります」