共演者も仰天した、怪優・田中裕子『おしん』撮影秘話

過労で倒れ、プレッシャーに悩み…
週刊現代 プロフィール

並樹 当然そうでしょう。僕の見立てでは、裕子さんは当時の現場の状況に半分も納得してなかっただろうと思う。それでも、不満を飲み込み、上手く笑顔や涙、困り顔など演技につなげていた。

 撮影が進むにつれて、小林綾子さんの少女編の視聴率がどんどん上がっていく。そのバトンを受ける裕子ちゃんは相当なプレッシャーだったと思います。慣れない脚本に加え、撮影中に過労で倒れたことからも、どれだけ過酷な状況だったかが分かります。

並樹 はい。裕子さんは演技中に、僕の目の前で突然、気を失ったんです。パタリと倒れるまで演技をし続けた彼女の姿から悲壮な覚悟を感じました。竜三の執事の源じい(源右衛門)役の今福將雄さんが咄嗟に抱きかかえたんですが、「夫であるお前の役目だろ」って感じで裕子さんを抱きかかえる役を僕に代わってくれた。

救急車がきて裕子さんはそのまま入院、撮影は1ヵ月休止になりました。

イメージ写真(Photo by iStock)
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木俣 身を削りながらも演じた田中さんのおしんは本当に魅力的でした。おしんはよく縫い物をしているのですが、作業しながらふっと何気なく頭を掻いたりする仕草に何とも言えない色気を感じます。質素な役のはずなのに、瞬間瞬間に色気が滲み出ているんですよね。

 確かに。ゾクッとするような色っぽさがあるんですよ。ただ、計算して出してるわけではないと思います。裕子ちゃん本人は色気を隠そうとしてるんだけど、溢れ出てしまっている。

木俣 おしんは忍耐のイメージが強いですが、女の華を隠し持っているのが、田中さん演じるおしんの凄さです。「真面目な働き者」というだけの女性だったら、社会現象にまでならなかったでしょう。また、小林さんのイメージが強烈だから誤解されがちですが、60%を超えた最高視聴率も田中さんが演じていた回です。

並樹 たしか11月でした。ドラマの上では、特に悲劇が重なるところ。国民の半数以上が、田中さん演じるおしんの行く末に夢中になっていたということでしょう。

 

木俣 はい。泉ピン子さん演じるおしんの母・ふじが死に、おしんの親友・加代は夫に自殺されてしまう。そして、おしんの元奉公先である加代の実家が倒産したという知らせが届きます。やがて、加代が女郎に身を落としてしまっていることを聞き、加代に会いに東京に向かう回です。

 自分の家族も大変な時期に、加代の身を案じてさまよい歩くおしんの顔は今でも忘れられない。あの自然で、かつ憂いのある表情こそ、裕子ちゃんの凄さ。会話の中で見せる演技よりも、表情ひとつで心情を表すほうが難しいですから。