金正恩の“ラブコール”で見えた「暴走カード」を失った北朝鮮の行方

米朝会談から1年が経った…
高 英起 プロフィール

トランプ×金正恩のケミストリー

トランプ氏は、大統領に就任する前からしきりに金正恩氏に対して「頭がおかしい。頭がおかしいか天才か、どちらかだ。父親(金正日)よりも不安定だ」「ちびデブ」などと挑発的な言動を繰り返していた。

一方、金正恩氏は2017年9月24日、自らの肉声で声明を発表し、トランプ氏に対して「怖じ気づいた犬がもっと吠え立てるものである」「ごろつき」「老いぼれ」など、とても国家元首が口にすべきでない罵詈雑言をぶつけた。

元首としての品格という意味では、どちらも問題があるといわざるをえないが、当時両者の罵倒合戦は当分続くだろうと筆者は予想していた。一方で、万が一情勢が変わって両者が会って膝を突き合わせて話せば意外と気が合うのでは? とも思っていた。

その理由は二人が「似たもの同士」だからだ。トランプ氏も金正恩氏も独裁的な政治を好み、派手な政治パフォーマンスが大好きだ。付け加えるならヘアスタイルへのこだわりも強いようだが、これはあくまでもジョークとして聞き流していただきたい。

 

トランプ氏にとって対立関係にある習近平氏やプーチン氏は、いずれも熾烈な政治闘争を勝ち抜いてきた手強いライバルになるだろう。一方、金正恩氏は2011年に急逝した金正日の後継者として大した政治実績もなく、北朝鮮の最高指導者となった。その後、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)をはじめ気に入らない高級幹部を粛清・処刑してきたが、トランプ氏から見れば孫のような年齢の小僧の政治家といったところだろう。

金正恩氏からしてみれば、世界最強国家である米国の大統領・トランプ氏に対して多少腰を低くして敬意を払っても面子がつぶれることはない。

そもそも、北朝鮮の最高指導者は建国以来、米国の指導者と対等に向き合うことを望んできた。今も昔も「ボス交(ボスの交渉)で最も敵対している者を落とせ!そうすればそれ以外の勢力は全て落ちたも同然だ」というのが北朝鮮の政治哲学だ。現代の国際政治にはふさわしくないかもしれないが、トランプ氏と北朝鮮の政治哲学の歯車はうまくかみ合ったのかもしれない。