金正恩の“ラブコール”で見えた「暴走カード」を失った北朝鮮の行方

米朝会談から1年が経った…
高 英起 プロフィール

非核化は簡単に進まない

多くの日本メディアがミスリードしているが、そもそも北朝鮮の非核化が一気に解決するということはありえない。

2010年に訪朝し、北朝鮮の寧辺(ニョンビョン)のウラン濃縮施設を視察したこともある米国の核物理学者ジークフリード・ヘッカー氏は、昨年の米朝首脳会談前の5月28日、「北朝鮮が核兵器廃棄に合意しても非核化作業に最長15年を要する」との報告書を発表した。

マラソンで例えるなら、米朝が出来ることは「非核化の達成」というゴールを両者で設定し「非核化の合意」というスタート地点につくことだけだ。「非核化の合意」と「非核化の達成」の間には大きな隔たりがあることを踏まえたうえで、北朝鮮の核問題を論じなければならない。

 

もちろん米国はこうした難しい事情を熟知している。だからこそ、米国は北朝鮮にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を求めていたが、その後FFVD(最終的で完全に検証された非核化)とハードルを下げたのだ。

ただし、長距離弾道ミサイル(ICBM)問題は別である。米国や国際社会は決してICBMの開発を認めない(認められない)が、北朝鮮が米国本土まで届く長距離弾道ミサイルを既に成功させている可能性は高い。米国からすれば時間がかかる非核化に力を注ぐよりも、ICBMの開発をストップさせることができれば、当面の危機は避けられると考えているだろう。

〔PHOTO〕Gettyimages

核問題だけでなく、メディアがミスリードしたのが「体制保証」問題だ。会談直後、各メディアに「米国が北朝鮮の体制を保証した」という見出しが躍った。しかし、米朝合意文をよく読めば、米国が北朝鮮の体制保証をするなどとは一言も書いていない。明記されているのは「朝鮮半島の平和体制の保証」である。

これを体制保証と解釈するのは無理がある。そもそも米国が他国の政治体制(金正恩体制)を保証することは内政干渉であり不可能である。核・ミサイル問題の進展の如何に関わらず、米国はいつ北朝鮮に対して強硬姿勢に転じてもおかしくはない。

しかし、繰り返すが金正恩氏とトランプ氏の関係自体は報じられているほど悪くないというのが筆者の見立てだ。