得意分野を伸ばし、不得意分野を学ぶには

「風景では仕事にならない」そう言われることが多かったけど、逆にその頃は風景をメインに描くイラストレーターがほとんどいなかったこともあり、新鮮に感じられたようで、コンスタントに仕事が入ってくるようになりました。

同時に人物画も勉強し、先輩イラストレーターや知り合いのデザイナーに見てもらいアドバイスをいただいては、また描くという日々。

山ほど描いた人物画の中から、自信作を使って自費出版の作品集を出し、同時に個展を開催しました。今見ると、まだまだ未完成の人物たちですが、それでもその絵をおもしろいと思ってのお仕事の依頼も少しずつ増えていきました。

そうして3年が過ぎました。

今の夫との出会い

いまの夫(ジャーナリスト 佐々木俊尚)はその頃、ある雑誌の編集部にいました。別の出版社の雑誌に掲載された私の風景画を気に入ってくれ、仕事を依頼されたのが出会いのきっかけです。
会ってみると、映画の趣味など合う部分が多く、本やアートのこともいっぱい知っていて聞くこと話すことがとても新鮮で、一緒にいる時間が増えていきました。

それまで考えたこともなかったのですが、「価値観」が合うことや、何も言わなくても分かり合えることが、こんなに気持ちがいいことなんだと知りました。
家族とも友達とも、もちろん夫とも、心が通じ合うという感覚は持ったことはなく、「別の人間なのだからそれが当たり前なんだ」と思い込んでいたからです。

両親の離婚以来、誰といても自分をさらけ出すことはできなかったし、信頼を置くことができませんでした。勝手に「誰にも本当の自分をわかってもらえない」と孤独感を抱えて生きてきました

今なら、それは自分が殻に閉じこもっていた部分もあって、最初から諦めていたからというところもあったとわかるし、もっと努力をすればよかったなと反省点もたくさんありますが。

そうして、その「価値観が合う」ことの心地よさを知ってしまうと、夫との暮らしは私にとって、とても味気ない寂しいものに感じられるようになってしまいました。

だから夫に「一緒にいても、同じ方向を向いている気持ちがしない」と私から離婚を切り出しました。静かに聞いていた夫は「考えたことなかったけれど、いま、言い出されてビックリしなかったから、きっとそのほうがいいんだと思う」と言ってくれました。

少し遅めの青春を謳歌できたのも、東京に出てくる勇気を持てたのも、夫のおかげ。
夫婦はこうあるべきというような押し付けのない、自由な気持ちを持っていた夫は、最後まで、私の思いを優先して背中を押してくれました。

佐々木と出会ってから、数ヵ月後のことでした。

それから一人暮らしを経て、私は佐々木と一緒に住むようになりました。