個展や本のカバー装画も多い人気イラストレーターの松尾たいこさん。デビューしてからは瞬く間に売れっ子になった松尾さんですが、実はそれまでには自信のないままに生きていたそうです。

地元広島の短大を卒業後、地元のメーカーに就職していた、松尾さんは、32歳になってから初めて自分の意思でイラストレーターへの第一歩を踏み出しました。幼少期の両親の離婚もあり、イラストレーターの夢を口にすることすら憚られていたモノクロの人生に少しずつ色がついていくように生きてきたといいます。

松尾さんが描く色鮮やかな絵のように、人生にどうやって色をつけていったのかを綴っていく連載第3回は、30代半ばでようやくイラストレーターの門戸が開けた松尾さんが、一人の男性との出会いをきっかけに、より自分が素直になれることを知ったときのことを綴ってもらいました。

今までの連載はこちら

憧れのイラストレーターの「入り口」に

表参道のギャラリーでの初個展、そして公募展「ザ・チョイス」への入選がきっかけとなり、私は子供の頃からの夢だったイラストレーターとしてデビューすることができました。

その頃には、広島にいた夫も転職して東京に出てきていたので、またルームメイトのような暮らしに戻っていて、それは絵に集中するにはとてもいい環境でした。

デビュー当時、私が描いていたのは風景画。

セツ・モードセミナーに通っていた時に参加した国内外のスケッチ旅行以来、風景を描く楽しさに目覚め、景色の中にいろんな模様や気持ちが見えてくるようになり、それをアクリル絵の具で表現するのがとても好きになったし、周りからの評価をもらえたのも風景画だったからです。

私は「風景」を描くイラストレーターになろうと決めました。

初めての仕事は、新潮社のクレストブックスという海外の小説を扱ったシリーズの単行本の表紙イラスト。『巡礼者たち』(エリザベス・ギルバート 訳:岩本正恵)のために雪の中を列車が走る絵を描きました。「ザ・チョイス」の入選作が掲載された雑誌「イラストレーション(玄光社)」を見た編集者からの依頼でした。

松尾さんが手がけた「初めての装丁」。現在『巡礼者たち』は新しい装丁で文庫化されており、その新しい装画も松尾さんが手がけた。

しかし最初はドシドシ仕事が来るという感じではなく、時々、ポツンと来る感じ。
これではいけないなと、出版社などへの持ち込み営業も始めました。
そこで持ち込み営業で何人もの方に言われたのが、「風景だけだと、仕事に繋がらない」ということでした。

「人物が描けなくちゃ」