「最低賃金1000円」が実現した時に、この国で起きること

効果と副作用を考える
加谷 珪一 プロフィール

最低賃金の引き上げ効果と副作用

最低賃金を引き上げるといった施策を政府が行った場合、最低賃金でギリギリの経営を行っていた企業は存続が難しくなり、倒産や廃業といった形で市場から退出することになる。もしその企業が行っていたビジネスに引き続きニーズがあれば、体力のある競合会社がそのビジネスを取り込んでいくので、経済圏全体としては生産性が向上し、平均的な労働者の賃金は上昇する。

つまり経営体力のない企業の退出を伴う形であれば、最低賃金の引き上げは賃金を上昇させ、その分だけ消費を拡大させる効果を持つ。

一方、政府による賃上げ要請に代表されるように、名目上の賃金を一斉に上げるという施策の場合には、あまり効果を発揮しない可能性が高い。

賃上げを余儀なくされた企業は、従来の利益水準を維持するため、製品価格に賃金上乗せ分を転嫁することになる。賃上げから少し遅れたタイミングで物価が上昇するするので、名目上の賃金は上がっても、労働者の実質的な賃金は変わらない。賃金上昇を過度に進めれば、単にインフレが進むだけで、実質的には何も変わらないだろう。

その点においては、一部の企業に市場退出を迫る最低賃金の上昇は相応の効果が期待できる。だが、最低賃金の引き上げには当然、副作用もある。それは雇用の減少である。

最低賃金を引き上げ、経営体力のない企業を市場から退出させれば、賃金は確実に上昇する。しかし経済圏全体で合理化が進むので、同じ業務をより少ない人数でこなせるようになり、雇用は減少するだろう。現時点で、いきなり最低賃金を1000円まで引き上げれば、地方を中心に多くの雇用が失われるのは間違いない。

 

引き続き仕事がある人の給料は上昇するが…

実は、この話は国民からの猛反発で頓挫した小泉政権の構造改革と基本的に同じである。構造改革の本来の目的は、高い付加価値を生み出せない企業を市場から退出させ、余剰となった人材を新しい別の産業に従事させることであった。

先ほど説明したように、最低賃金を引き上げた場合、低賃金のみで経営が維持されていた企業は廃業を余儀なくされるが、一方で労働者の平均賃金は上昇する。

例えば、ある企業に100人が雇用されていたとして、最低賃金の引き上げによってその企業が廃業したと仮定する。その企業が作っていた製品やサービスに一定のニーズがあれば、競合となる企業などが、シェアを拡大したり、買収するといった形で、事業を継続する可能性が高い。