「老後に2000万円不足」騒動、金融庁の欺瞞とマスコミの大間違い

こんな説明をしていて大丈夫か…?
飯田 泰之 プロフィール

「嘘とは言えないウソ」とでもいうべき投資勧誘の定番資料が連日テレビで取り上げられることは、人々の焦燥感や不安感を高めることとなり、同報告書でも憂慮されている高リスク商品、高手数料商品の販売に加担することにつながるのではないだろうか。

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公的年金のみで「高齢者世帯の平均的な支出額」を賄うことはできない。これは制度への諦めや責任の放棄ではなく、単なる算数の問題である。現実的な数値例ではないが、仮にすべての家計が老後に月30万円の年金を受給できるようになったとしよう。このとき、高齢者世帯の平均支出額は必ず30万円よりも高くなる。貯蓄が禁止されていない以上、現役時代の貯蓄を取り崩すことで年金支給額以上に支出する家計が必ず存在するからだ。

また、様々なメディアから依頼いただいた取材で必ず出てくるのが「結局年金だけで生活できるのかできないのか」、「不足するならいくらなのか」、「資産はいくら必要なのか」という質問である。加入期間の短さや離死別による無年金・低年金家計の生活支援は重要な課題である。

 

しかし、多くのケースで筆者から聞きたいと思っているのはそのような回答ではないだろう。一般的な年金支給額である15万円から20万円ほどで「生活できるのか」「いくら不足するのか」が問われている。

答えは簡単だ。より多く使いたいならばより多くの貯蓄が必要であり、それなりの支出水準でよいならばそれなりの貯蓄でカバーできるだろう。これもまた全く求められていない返答であろうが、それ以外に答えようがない。

メディアの取材姿勢は、その受け手(購読者や視聴者)のニーズの写し鏡である。年金に関する報道が注目を集める大きな理由は、少なからぬ国民の「年金とは何か」に対する過剰な期待にあるのではないだろうか。

公的な年金のみで誰もが納得する生活を送れるようにするためには、支給開始の充分前の段階から掛け金を大幅に引き上げておくか、現役世代の負担を大幅に増やすしかない。この当然の計算を忘れて年金の議論を進めても生産的な議論が生まれることはないだろう。

*1 5月22日報告書(案)公表、6月3日報告書公表
*2 画像は4月に開催された「第21回市場ワーキンググループ 厚生労働省提出資料」のもの(報告書の図表は画像不鮮明なため引用にたえない)。ちなみに2019年2月に公表された2018年の家計調査では、ここでいう「不足分」の額は41,872円である。なぜ最新の数字を使わなかったのかには疑問が残るが、そもそも意味のある数字ではないので詳説しない。
*3 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(二人以上世帯調査,平成30年調査結果)。調査の年齢・就業区分に違いがあることなどから金融庁報告書資料の値とは一致しない。