「老後に2000万円不足」騒動、金融庁の欺瞞とマスコミの大間違い

こんな説明をしていて大丈夫か…?
飯田 泰之 プロフィール

金融庁の「金融リテラシー」が問われかねない

さらに、平均値によって議論することの危険性も忘れてはならない。高齢無職世帯の「経済力」の差は主に資産額の差による。多くの資産をもつ世帯が非常に多くの支出を行うと、「平均値」は「世間で一般的な値」から大きく引き上げられてしまう。

この問題点がよりクリアにわかるのは資産額の「平均値」だろう。2018年の金融広報中央委員会による調査では世帯主70歳以上の世帯の平均金融資産保有額は1780万円である3。この値を見ると、驚く方が多いだろう。

しかし、特別に多くの資産を持つ世帯が存在することを忘れてはならない。より「世間で一般的な値」に近いのは中央値――資産が多い順に並べてちょうど真ん中の順位の人の値だ。同調査での高齢者金融資産の中央値は700万円である。こちらのほうが、「一般的な資産額」の実感に近いだろう。

「一般的な資産額」とは程遠い平均資産額を示して、資産形成の不足感をあおる手法は投資営業の世界ではおなじみである。「高齢者の平均資産額は2500万円です――お宅の資産形成は順調ですか?」といった具合だ。

資産関連の話題を考えるとき、平均値は適切な指標ではないケースが多い。これは、経済データを取り扱う際の基本中の基本である。このような基本事項を踏まえずに、差額である「5.5万円」を「赤字」と表現した同報告書の問題は大きい。本報告書のなかでは、金融リテラシーの必要性も提言されているが、金融庁自体のリテラシーが疑われかねない。

さらに長期分散投資の実績例の提示などもまるで投資信託のパンフレットを見せられているようだ。つみたてNISAやiDeCoの普及拡大を目指しての勇み足であったと感じるが、そのために必要なのは金融機関の営業マンになることではなく、より簡易で利用しやすい制度設計を行うことであろう。

 

マスコミの間違い

一方で本件に関するメディアの反応も、そのデータ・金融に関するリテラシーを疑わずにはいられない。第一報は報告書の主要な内容を中立的に伝えるものであったが、時を経るにつれてその報じられ方は、エスカレートしていく。

平均収入と平均支出の差額には「不足」という意味合いはない。しかし、テレビのニュース番組、ワイドショーなどでその問題点に触れられることは少ない。結果、「5.5万円の不足」という数字のみが独り歩きしてしまっている