世界的に注目を集める「ベーシックインカム」その財源の考え方

税の構造を変えるか、税収に頼らないか
山森 亮 プロフィール

税収構造の変更

まず前者だが、さまざまな提案がある。

もっともよく聞かれるのは定率所得税の導入である。

たとえば約50%の定率所得税を導入すれば月8万円程度のベーシックインカムの支給が可能だというような試算がある。

イギリスの緑の党や、イギリスの市民ベーシックインカム財団(Citizen’s Basic Income Trust)は、(法人税や付加価値税などは現行のままで)現行の累進所得税を定率所得税に変更するという税収構造の変更を提案している。

そのほかには、所得税の累進度の強化、税制を消費税に一本化、環境税やトービン税といった新しい税の導入等、多様な提案がある。

ただ、いずれの提案も、今より税負担が(すくなくとも表面的には)重くなる形のものだ。これらの提案に対して、よくなされる質問は、「そんなことが可能か」というものだ。

理論的には可能だ。ただ政治的実行可能性となると別問題だ。自分たちの社会を良くするために、税を増やすという選択をしてきた国はたくさんある。しかし日本では過去数十年にわたって、増税を正面から掲げて選挙で議席を増やした政党はほとんどなかったようにも記憶している。

 

貨幣・銀行制度の変更

さらにこれだけ、財政赤字が累積している中で、仮に増税できたとしても、それは財政赤字解消にもちいるべきで、大きな支出を要する新しい政策の導入の余地はないという声もある。この声はいわば一般常識とされてきた。

この「常識」に対してはL.ランダル・レイらによる現代貨幣理論(MMT)から「異説」が提起されているが、ここでは立ち入らない(現代貨幣理論については中野剛志2016『富国と強兵』東洋経済新報社や、朴勝俊「MMTとは何か」などが詳しい。なおレイはベーシックインカムに否定的である)。

「常識」に即した場合、しかし、余地がないのは、ベーシックインカムの導入だけだろうか。

憲法に書かれているさまざまなほかの権利を現実化していくことは可能だろうか。

そもそも既存の制度やインフラを維持していくこと自体、可能なのだろうか。

プライマリーバランスの収支を整えるということではなくて、累積している財政赤字を解消できる、現実的な見通しはあるのだろうか。

見通しとして示されるシュミレーションで仮定されている成長率などは、本当に達成できるものなのか。

仮定されている成長率をなんとか達成できたとしても、そのために払う「社会的費用」を考えた場合、それは望ましいものなのだろうか。

1929年の大恐慌や、2008年の世界金融危機から、私たちが学んだことは、危機が発生した場合にその危機から抜け出すための方策は、現行の貨幣・銀行制度のもとでは、財政赤字を拡大しがちだということだ。

どちらの危機でも、信用が極端に収縮した。どういうことか。