Aさんは子どものころからのんびり屋で、友達とは活動のテンポがまったく合わなかったそうです。勉強はよくできるほうで、高校卒業後は、現役で国立大学に入りました。ただ、大学でも積極的に友達と交際することはなく、サークル活動にも参加しませんでした。
Aさんは、自分には事務職のように、静かな環境でできる仕事があっていると考え、就職活動を行いました。学歴も高く、性格も穏やかなので、無事に老舗企業から事務職で内定を受け、社会人となりました。
ところが就職後は問題続きでした。基本的な作業はすぐに覚えられたのですが、他部署の要望に応じて作業を調整することがうまくできません。その結果、いろいろな人を怒らせてしまい、人間関係のトラブルが続発したのです。
結局、その老舗企業にはいづらくなってしまい、退職してしまいました。
ところが転職先の職場でも、一定の作業はこなせるものの、仲間と協力しないということで、人間関係のトラブルが生じてしまいます。結局、その職場も数ヵ月で退職してしまいました。
その後も、就職~仕事を覚える~人間関係のトラブルが生じる~退職の繰り返しになってしまい、あちこちの職場を転々とするようになってしまいました。
そこで、Aさんは就職支援機関に出向き、窓口で相談員の話を聞いたり、資料を読んだりするようになりました。そして、なぜ自分は長く働き続けられないのか、考えてみました。
相談員の話や、資料に出ていた事例などから、自分には発達障害があるのではないかと、Aさんは気づいたのです。
仕事はそれなりにこなせるのに、どうしてもうまくいかないという例は、少なくありません。Aさんは人間関係のトラブルで離職しましたが、ほかにも仕事そのもの以外の理由で困難が生じてひとつの職場に長く居続けられず、転職を繰り返すケースは予想以上にあるのです。
離職経験のある発達障害の人たちが挙げた「離職の理由」を見てみましょう。
●仕事そのものができなかった
●仕事が合わなかった
●対人関係の問題が起きた
仕事そのものができなかった、という以外に、ストレスや精神的疲労、人間関係がなじめなかった、いじめや強要などの問題によるものが多いことに気づきます。
仕事をするためには、その仕事に見合った技術などのハードスキルと、社会生活を送るためのコミュニケーションやスケジュール管理などのソフトスキルが必要ですが、発達障害の人たちの離職理由には、ソフトスキルの問題に起因するものがかなり多いのです。
また、この2つのスキルを支えるのは、食事や睡眠、身だしなみなどの日常生活におけるライフスキルです。ちゃんと食べて、身だしなみも整えて、疲れたら休んで充電する。そうした社会生活を支えるライフスキルに問題が生じている人も少なくありません。
発達障害の人の就労問題は、働きづらさの背景を理解して、仕事とその周辺事情、そしてその人の日常生活におけるライフスキルにまで、広く目を向ける必要があるのです。
しかし、こうした問題がなぜ起こるのか、という背景は、なかなか自分ではわからないものです。問題の背景を探り、同じ失敗を繰り返さないためにも、支援を受けることが大切だということが言えるでしょう。
では、発達障害の人が受けることができる就労支援とは、どういうものなのでしょうか?