ファーウェイは本当に「悪の帝国」なのか…本社を訪れて確かめてみた

広大な敷地を歩いて見えてきたもの
近藤 大介 プロフィール

就職したい企業ナンバー1

だが、当時の日本の大企業と現在のファーウェイでは、異なる点が2つあった。その第一は、社員に対する手厚いケアである。

ファーウェイは、同じく深圳に本社を置くテンセント(騰訊)と並んで、中国の理科系の大学生たちが就職したい企業ナンバー1である。年々その競争は増していて、いまでは名門校の大学院卒や海外留学組などが主流を占める。

そして入社すると、他社とは比較にならない年俸と、深圳市の戸籍を与えられる。8万人以上の社員に、自社株も賦与されている。タワーマンションの広い社宅を格安で借りられ、マイカー出勤できる。社内の地下駐車場も見せてもらったが、トヨタやホンダの高級車がズラリ停まっていた。

ランチは前述の通りだが、ランチタイムが終わると社内が一斉消灯となる。これは「お昼寝タイム」を実施しているためで、社員には横になれる椅子が与えられている。夜は9時を過ぎると、夜食が食べ放題となる。

任CEOの「教育こそすべて」という考えに基づき、社員教育にも力を注いでいて、わざわざ研修センターを、J区(坂田園区)に拵(あつら)えている。そこの広いロビーではサッカーでもできそうなほどで、天井には一面に白い蓮をかたどった飾りつけをしていた。

ロビー左手には、「完全につながったインテリジェントな世界を実現していく」との社是が掲げられていて、その近くには、講師になっている国内外の7人の従業員らの大判の顔写真が飾られている。その下には、「積極奉献、団結協作、頑強学習、楽観精神、不折毅力、堅強意志、健壮体魄」という7つの標語が掛かっていた。

また、ソフトウェア開発の2人の中国人専門家を講師に招いた研修会が、5月29日19時~21時にここの研修室で行われたと表示があった。こうした案内は、社内ネット「心声社区」を通じて全社員に通知され、興味がある社員は無料で聴講できるという。

話は戻って、ファーウェイと日本の大企業とのもう一つの違いは、社員の年齢構成ピラミッドである。ファーウェイ社員で多数を占めるのは、「90後」(1990年代生まれ)の若者たちなのだ。

アメリカの罠

B区の財務センタービル1階にある「ファーウェイ図書館」にも足を運んだ。

「ファーウェイ図書館」は、荘厳な雰囲気だった。入口では、中国茶のお点前をしていて、プロが淹れたお茶を味わいながら読書できるようになっている。茶菓子として、ちまきもサービスしていた。また、「コーヒー派」のために、スタバのようなオシャレなカフェも併設されていた。

閲覧室を入ると、スペースの半分は「A 商業財経」コーナーになっていて、4分の1が「B 人文科学」になっていた。その残りが「C 文学詩歌」と「D 芸術美学」。ファーウェイだから技術書の図書館かと思いきや、ほとんどが文科系の本で埋め尽くされていた。これも任CEOの「思想と哲学を磨け」という教えによるものだ。

閲覧室入口の「推薦図書コーナー」には、『甲午戦争』(日清戦争)という本もあった。「失敗に学べ」という意味だ。

だが、ファーウェイのいまの「敵」は、何と言ってもアメリカである。入口には『美国陥阱』(アメリカの罠)が、これみよがしに立てかけてあった。著者はフランス人のフレデリック・ピエルッチ氏で、中国語版は今年4月に出たばかりだ。この本は、ファーウェイ社内のあちこちで売られていて、日本料理店『喜代川』でもタイ料理店『LAN THAI』でも、入口に積まれていた。

ピエルッチ氏は、1928年創業のフランス最大の重機メーカー「アルストム」の元原発部門責任者で、2013年4月14日、ニューヨークのケネディ国際空港に降り立った時、突然FBI(米連邦捜査局)に逮捕された。その10年ほど前に中東で行っていた取引が「反海外腐敗法」に違反したという容疑だった。

ピエルッチ氏の主張によれば、それはまったくの濡れ衣で、アルストムの核技術がアメリカを大きく超えてしまったため、恐れをなしたアメリカが、アルストムの原子力部門を叩き潰す決意を固めたのだという。

結局、7億7200万ドルの罰金を科せられたあげく、2015年に発電部門を、半ば強制的に米GEに売却させられてしまった。その後、アルストムは世界第3位の鉄道車両メーカーとして生き残り、2018年度の売り上げは81億ユーロである。

 

ピエルッチ氏は5月31日、中央広播電視総台(CCTV)のインタビューにも登場し、こう述べた。

「今回のアメリカによるファーウェイ叩きは、2013年にアルストムが受けた仕打ちとまったく同じだ。2013年の私が、現在の孟晩舟副会長だ。ファーウェイに何か問題があるから叩くのではなく、アメリカの水準を超えてしまったファーウェイの力を弱めて、アメリカの監視下に置くための策略なのだ」

中国政府はこの本の中国語版を、中央官庁の官僚たちに配布した。そしてファーウェイでは、この本を全社員に読ませようとしていた。