ファーウェイは本当に「悪の帝国」なのか…本社を訪れて確かめてみた

広大な敷地を歩いて見えてきたもの
近藤 大介 プロフィール

オフィスに入る門では一部、顔認証入館が始まっていた。今後、すべての入館を、顔認証に変えていくという。

広大な社屋に入ると、一面の緑が広がっていた。鳥やセミの声が響いていて、まるで欧米の大学キャンパスのような風景だ。ファーウェイを巡って世界中が騒然としているというのに、この社内の静謐さは意外だった。

そんな中を時折、社内の循環バスが通り過ぎていく。5万人が働く巨大なオフィス群は、高層の建物が2棟しかなく、基本的に平屋構造になっていた。社屋を高層棟にすると、エレベーターを待つ時間が非効率であり、かつ無用なストレスを生むという考えに基づくものだという。

中国のオフィスで駐在員経験がある人なら、この意味は理解できるはずだ。私は3年、北京で駐在員生活を送ったが、毎朝のエレベーターホールは満員列車のような状態で、長時間待ってようやく上階のオフィスに辿り着くと、もうそれだけで一日の仕事が終わったような疲労感を感じたものだ。それと同じことが、ランチタイムと夕刻の退社時間にも繰り返された。

「日本企業の原風景」をみた

ファーウェイ社内を歩いていると、任CEOの経営哲学や思想が、各所に根づいていることが分かる。

例えば、「食在中国」(食は中国にあり)という言葉があるが、ファーウェイはランチタイムを非常に重視している。5万人の社員全員が一度にランチを取れるようになっていたのだ。

お昼時になると、若い社員たちが一斉に、外へ出てきた。F区にある社員食堂の1階に行ってみると、巨大なフロアは世界の地名で仕切られていた。ボルチモア、トロント、ワルシャワ、モスクワ、バーレーン……。

フロア中央部は、バイキング形式になっており、数百種類のおかずが並んでいた。周囲の壁際には、魚の姿煮、羊肉串、牛肉面などの専門店が、ズラリ立ち並んでいる。席の数だけで、ざっと2000席はありそうだ。似たような施設が、地下1階と2階にもあるので、この社員食堂だけで6000人分を賄っていることになる。支払いはスマホ決済か、または「工卡」(コンカー=社員証)を翳(かざ)して行う。

こうした社員食堂が社内の各地に点在していて、本格的な日本料理店「喜代川」を始め、世界各地のレストランがあった。

 

私は日本企業を取材する場合、必ず昼に、その会社の社員食堂でランチを食べさせてもらうことにしている。そこでは社員たちの「飾らない顔」が見られるからだ。赤字続きだったり、社内不和が起こっていたり、経営者が社員たちから尊敬されていないような会社は、決まって社員食堂の雰囲気が暗い。

ましてや、アメリカからこれだけ痛めつけられているファーウェイのランチタイムは、さぞかし通夜のようなものかと想像していたら、さにあらず。ファーウェイ名物の「5万人ランチ」は、実に壮観だった。「90後」(1990年代生まれ)の社員たちは、まるで大学の学食にいるかのように、同僚同士で議論したり、冗談を言い合ったり、スマホをいじったり……。

私は、せっかくだからと思い、アメリカ・ボルチモア区域に陣取って、15元(約230円)の牛肉面をいただいた。これが安い「社食メシ」かと思うほど絶品だった。甘粛省で食べた蘭州拉麺に似た味で、乗っかっている牛肉は、かなりの高級品である。しかも、細麺と太麺から選べて、トッピングも自由だ。

そうやって麺を啜りながら、これはどこかで見た風景だと思い直した。そうだ、私が若い頃、1970年代から80年代にかけて、日本の大企業に社会科見学に行った時に見た光景そのものだ。

日本は1970年に大阪万博を開催し、1985年には筑波科学万博を開催した。あの頃は、「次世代には日本が、アメリカに取って代わって世界の技術立国になる」と、日本の技術者たちは希望に満ち溢れていたものだ。そんな「日本企業の原風景」を、いま中国でファーウェイが引き継いでいるというわけだ。