米中新冷戦は「新しい文明の衝突」なのか? 国際政治学者はこう見る

今こそ日本は現実を直視すべきである
篠田 英朗 プロフィール

政治学者である北岡伸一・JICA(国際協力機構)理事長は、近著の中で、日本政府が言う「自由で開かれたインド太平洋」という概念は、「戦略ではない」と述べている(北岡伸一『世界地図を読み直す』[新潮選書、2019年]19頁)。

「自由で開かれたインド太平洋」は、多くの政策の上にくる目的ないしヴィジョンというものであって、目的を実現するための方法としての「戦略」ではない。

実際、日本政府は、自由で開かれたインド太平洋「構想」という言い方もするようになってきている。北岡理事長も、「構想」が本来の意味に近いと述べる。

ところが、このようなニュアンスは、安倍首相の後に「インド太平洋」の概念を使うようになったはずのアメリカ政府との間では、微妙なずれがある。矛盾ではないが、ずれがある。

 

すでに『現代ビジネス』で長谷川幸洋氏が取り上げている米国国防総省が発表した『インド太平洋戦略報告(Indo-Pacific Strategy Report)』では、その題名から歴然と示されているように、「インド太平洋」は「戦略(strategy)」として用いられている。

もっともこの報告書も、「自由で開かれたインド太平洋のヴィジョン(vision for a free and open Indo-Pacific)」について語っている。他国もヴィジョンを共有している、と説明されている部分では、安倍首相の発言が真っ先に引用されている。

だがそれにしても、この報告書は、中国を名指しで「修正主義の国(revisionist power)」と呼び、中国の人権侵害の事例やその軍事的脅威などの問題が列挙して、中国の動きが「自由で開かれたインド太平洋」に反していると断定している。

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この報告書は、さらにロシア、北朝鮮を、名指しでインド太平洋の「ルールに根差した国際秩序」の脅威であると論じている。かなり具体的な脅威の所在を明示したうえで、「インド太平洋戦略」が語られているのである。

国防総省は、他の政府機関とも協力して、経済的な面なども含めた領域での努力が必要だとは言っている。

しかし結局のところ、同報告書の中心的な内容は、軍事的な能力を高めて「インド太平洋戦略」を追求していくことにあるので、安全保障政策がこの「戦略」の中核を形成していることに、疑いの余地はない。

日本としては、アメリカがここまで本気になってくると、いささか押され気味だというのが本音だろう。アジアの超大国・中国を警戒しながらも、不用意に刺激したくないという気持ちを持つのも、当然だろう。

しかも中国はむしろ日本に抑制的な態度をとってきている。米中間の貿易戦争で日本は漁夫の利を得られるとする議論もある。