米中新冷戦は「新しい文明の衝突」なのか? 国際政治学者はこう見る

今こそ日本は現実を直視すべきである
篠田 英朗 プロフィール

「文明の衝突」論は、2001年の9・11テロに起因する「対テロ戦争」の時代においては、もっぱら西洋文明とイスラム文明の対立を語るものとして意識されてきた。

ところがトランプ政権下で急速に対中国強硬論が高まる中、ついに米中の間の対立についても、「文明の衝突」が参照されるようになってきたわけである。

昨年10月にペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説は、その強硬な反中国の内容から、「新冷戦」の開始を告げるものと言われるようになった。その後のトランプ大統領が主導する度重なる関税引き上げ合戦は、「貿易戦争」とも称される。

いまだ一つの固定された言い方が見つかっていない米中の間の対立または競争関係だが、新しい段階に突入していることだけは確かなようである。

 

インド太平洋「戦略」なのか

5月末のトランプ大統領国賓訪問の際には、日米同盟の蜜月状態が強調された。戦略的な視点から、米中の利益が一致している認識があればこそ可能となった演出であった。

しかし急速に強硬姿勢を強めるトランプ政権の対中政策に、日本政府が完全に同調しているかと言えば、そこは微妙である。

しばらく前であれば、東シナ海や南シナ海の領土紛争や軍事化などを念頭に置いた「海洋の法の支配」は、日本政府が頻繁に語る概念として知られていた。「インド太平洋」の概念も、安倍晋三首相が提唱し始めたとされる。

いずれも中国をけん制する意図があって語られ始めたと考えられている。かつては日本のほうが、対中政策では強硬だと見なされていたのである。

ところが今や「インド太平洋」概念は、アメリカのほうが積極的に使うようになっている。

「ルールに基づいた国際秩序(the international rules-based order)」といった言い方も、アメリカ政府高官が、中国をけん制する際に、好んで使う概念となっている。

こうした流れの中で、旗振り役だったはずの日本のほうが、落としどころを見極めきれないでいるようにも見える。