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ポスト・トゥルースを突き抜ける新しい哲学の挑戦

マルクス・ガブリエルと新しい実在論
浅沼 光樹 プロフィール

ポスト・トゥルースはポストモダンの鬼子か

これも昨年『ポスト・トゥルース』と題する著作を刊行したリー・マッキンタイアによれば、科学的・学問的方法そのものに対して疑いのまなざしが向けられる際に、このような態度を支えているのは「科学が真理を独占しているわけではない」という思想であり、この思想の起源をたどればポストモダンに行きつく。

真理や事実を特定の社会集団によって構成される間主観的なものとする「社会構成主義」はポストモダン思想の重要な側面の一つである。しかし、このような考え方に従えば、特権的な唯一の真理などなく、科学的真理といえども特定の社会的文脈を前提とし、それを是認するイデオロギーの所産として複数の真理の一つへと格下げされるのである。

90年代の半ばに、数学や理論物理学の用語を散りばめた無内容な疑似論文がポストモダン系の学術誌に投稿され、掲載されるという事件が起こった。いわゆる「ソーカル事件」である。物理学者ソーカルは、ポストモダンの思想家による科学の乱用に科学的真理や事実の軽視という姿勢を見てとり、いささか悪趣味な仕方でポストモダンを糾弾したのだった。

しかしマッキンタイアによると、この告発はセンセーションを巻き起こしたこともあり、かえってポストモダン的な科学批判を一般に広め、特定の政治的立場を擁護する人々がそれを悪用するきっかけを作ったのである。

 

近年におけるその代表が大統領選におけるトランプの勝利に影響を与えたとされるブロガー、マイク・セルノヴィッチである。セルノヴィッチはポストモダン的な相対主義の理論を熟知した上で、それが陰謀論やフェイクニュースを信じさせる根拠になりうると見なしていた、とマッキンタイアは指摘している。

これに対して哲学者達の側にはどのような反応が見られるであろうか。すでに以前からブリュノ・ラトゥールは、科学的証明の不十分さを指摘する自身の手法があらゆる真理を反駁するための道具となった、ということを憂慮していた。これをマッキンタイアはポストモダンによる「本物の遺憾の意の表明」と呼んでいる。

また最近(2017年)では、ダニエル・デネットがあるインタビューの中で真理と事実に関するシニカルな態度を広めた責任の一端がポストモダンにあることを認めている。