「地獄の川」から「かわいい神様」まで 恐竜ネーミングの意外な秘密

「恐竜大陸をゆく」特別編!!
安田 峰俊 プロフィール

多彩なボディプランからわかること

──黒須さんが北京で研究している対象についても教えてください。

私が現在興味を持っているのは、獣脚類のなかのひとつのグループである「コエルロサウルス類」の進化についてです。

あまり耳慣れない名前かもしれませんが、この仲間はドロマエオサウルス類やティラノサウルス類、また現生の鳥類を含んでいます。ジュラ紀に登場し、白亜紀を通して繁栄した生き物で、多くの種が羽毛を備えていました。

ヴァリラプトル コエルロサウルス類ヴァリラプトル(コエルロサウルス類)の復元図 Illustration by Roman Garcia Mora / Stocktrek Images

──近年、いちばんアツい種類ですね。中国では羽毛の痕跡を持つ小型獣脚類の化石がたくさん出土していますし、ティラノサウルスの祖先もかつて中国大陸から北米に渡っていったとみられています。

初期のティラノサウルス類の進化はまだ不明な部分も多く、断言はできないのですが、アジアで基盤的なティラノサウルスの仲間が多く見つかっているのは確かですね。

かなり大雑把に獣脚類の歴史を見ていくと、ジュラ紀と白亜紀、北半球と南半球で、異なる種類の獣脚類が生息していたことが分かります。

ジュラ紀は、世界的にアロサウルス類やメガロサウルス類などの比較的古いタイプの肉食の獣脚類が大型の捕食者としての生態的地位を占めていました。ところが白亜紀後期になると、北米では大型捕食者の地位が徐々にコエルロサウルス類に取って代わられます。代表的なものは最大12mにもなるティラノサウルスですね。

このダイナミックな「政権交代」が、コエルロサウルス類の研究の魅力の一つです。

──私、もちろんティラノサウルスも好きなんですが、ヴェロキラプトルやディノニクスみたいなドロマエオサウルス類も好きなんですよ。敏捷で頭がいい、クールなイメージがあります。

ヴェロキラプトルヴェロキラプトル(ドロマエオサウルス類)の復元図

中国北部の熱河層群で見つかっている羽毛恐竜にもこの仲間が多いですよね。

ドロマエオサウルスの仲間は、多様性も大きな魅力です。たとえば、遼寧省の熱河層群から見つかった白亜紀前期のミクロラプトル(Microraptor 本記事冒頭の写真参照)は、ハトよりすこし大きいくらいの小型の恐竜でした。

ただ、彼らは前肢と後肢に4枚の翼があり、鳥のようにある程度の滑空飛行ができたと考えられているんです。

──熱河層群からは「イー(Yi)」をはじめ、飛行していたと見られる恐竜の化石がいくつも見つかっています。

はい。ミクロラプトルとほぼ同時期に遼寧省にいたとみられるイーも、コウモリのような膜状の翼を持つスカンソリオプテリクス類と呼ばれる獣脚類でした。他にも原始的な鳥類の仲間がたくさん見つかっています。

白亜紀前期の熱河層群は森林のような場所だったとみられ、飛行能力を持つ多様な生き物が暮らしていました。

いっぽう、白亜紀末期のアルゼンチン、アレン層から見つかったアウストロラプトル(Austroraptor)は、体長が6mほどもある最大級のドロマエオサウルス類でした。

アウストロラプトルアウストロラプトルの復元図 Illustration by Stocktrek Images / Elena Duvernay

この種は多くの大型の竜脚類の化石と一緒に見つかっています。アウストロラプトルが群れで狩りをおこなったかはまだ不明ですが、ドロマエオサウルス類のなかでも際立って大きな体は、比較的大きな獲物を捕らえるために適応したものだったのでしょう。

数十cmのミクロラプトルから、6mのアウストロラプトルまで、ドロマエオサウルスの仲間は多様なボディプランを持つものがいたんです。

──ボディプランは、自動車や飛行機なんかで言えば「設計上のコンセプト」といったところでしょうか。本来は小型の獣脚類だったコエルロサウルス類から、白亜紀末期に巨大なティラノサウルスが出現したのも、やはりそうした進化の結果だったんでしょう。

ええ。恐竜たちのさまざまなボディプランは、周辺の環境への適応の結果ですから、当時の生物相を復元する重要な手がかりになります。

コエルロサウルス類が進化した時代は、ちょうど古いタイプの獣脚類と新しいタイプの獣脚類が覇権を争った「戦国時代」。その様子を復元するのが私の今後の目標です。

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