「地獄の川」から「かわいい神様」まで 恐竜ネーミングの意外な秘密

「恐竜大陸をゆく」特別編!!
安田 峰俊 プロフィール

うーん、中国の地位向上と言うより、世界的に個性的な名付けが流行っている、というほうが近いかもしれません。

「サウルス」というのはもともとギリシャ語で「トカゲ」を意味するsaurosに由来し、19世紀から今日に至るまで、恐竜やその他の爬虫類の命名に広く使われていました。「〇〇サウルス」「〇〇ドン(ギリシア語で「歯」の意味)」「〇〇ニクス(「爪」の意味)」などは恐竜でもよく見られる名前ですね。

1980年代に入ると、ヨーロッパや北米以外の場所でも盛んに研究が行われるようになり、徐々に従来の命名パターンにとらわれない面白い名前が出てきたように思います。

これは恐竜ではなく翼竜の例になりますが、ユニークな形の頭蓋骨を持つブラジルの「タペジャラ(Tapejara)」の命名は現地の先住民族の神話に由来していますし、米国南部のテキサス州で見つかった史上最大級の翼竜「ケツァルコアトルス(Quetzalcoatlus)」の名は、国境を接するメキシコのアステカ神話に由来しています。

タペジャラタペジャラの復元図 Illustration by Sergey Krasovskiy / Stocktrek Images

──そう言えば、オーストラリアのクイーンズランドで見つかった「ミンミ(Minmi)」もそうですね。

ミンミミンミの復元図 Illustration by Sergey Krasovskiy / Stocktrek Images

名前も見た目もかわいい、白亜紀前期の3メートルくらいの曲竜ですが、「ミンミサウルス」ではなく「ミンミ」になった。発見地の地名がそのまま学名になったようです。

1990年代からはいっそうユニークな命名が増えました。私のお気に入りは堅頭竜の「スティギモロク(Stygimoloch)」で「死の川ステュクスから来た悪魔」という、ギリシャ神話に由来した命名です。この化石はアメリカ北西部のヘルクリーク層から発見されたためにそう名付けられました。ヘルクリーク、すなわち「地獄の川」ということですね。

残念ながら、現在ではスティギモロクはパキケファロサウルスのシノニム(同物異名)とされることが多く、徐々に使われなくなっているのですが……。

スティギモロクスティギモロクの復元図 Illustration by Nobumichi Tamura / Stocktrek Images

スティギモロクとも近い地域から見つかっている、オヴィラプトル類の「アンズー(Anzu)」もいます。こちらはメソポタミア神話で「天命の書版(神々の王であるという権威の象徴)」を盗み出したとされる有翼の怪物に由来する名前です。

アンズーアンズーの復元図 Illustration by Mark Klingler / Carnegie Museum of Natural History / Getty Images

元ネタは古典のかわいい怪物?

──以前にこの連載で、最近の中国恐竜に「千禧中国鳥龍(Sinornithosaurus millenii;シノルニトサウルス・ミレニー)」みたいなキラキラネーム系の命名が多いことをツッコんだ記事がありましたが、他国の恐竜の命名も、近年はかなり発見者の趣味が反映されている……と。

ただ、北米・南米系のほうがネーミングセンスがオシャレな印象です。

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