
「長崎ちゃんぽん」を軸に全国で455店舗を展開するリンガーハット。"定価値上げ"でV字回復を遂げた(左)
〔PHOTO〕香川貴宏(以下同)
デフレ不況で、企業各社が苦しんでいる。だが、そんな中でも、ちょっと値段が高い「チョイ高」商品の売れ行きは好調だ。人気のヒミツを探った。
大勢の若者でごった返す東京・渋谷のセンター街。その街中にあるマクドナルド「渋谷センター街店」は、以前とはまるで様子が違っていた。
ド派手な巨大ポテトの看板が撤去され、茶色地のシックな看板に変わった。店員の制服は、見慣れた赤と白のシャツに赤いキャップではなく、白いTシャツで首には黒地のスカーフ、頭にはグリーンや茶色のベレー帽。店内は、レタスや小石などをモチーフにデザインされた壁に囲まれ、商品ポスターも貼られていない。

夕食時間前の5時に訪れたがほぼ満席だ。客はくつろいだ様子で、ハンバーガーやポテトフライを口に運んでいる。
ドリンクを前に本を読みふけっている一人客も多く、ネクタイ姿のサラリーマン客も目にする。渋谷の雑踏を感じさせない、おしゃれなカフェといった趣だ。
実はここ、日本マクドナルドが今年4月25日に東京都内12店舗(6月にもう1店舗追加)を改装オープンした「新世代デザイン店舗」の一つだ。その"雰囲気代"なのか、ハンバーガーやポテトフライなど一部の商品は他店舗より10〜50円高い。低価格で人気を呼んだ「100円メニュー」もない。
つまり、ちょっと値段の高い「チョイ高」店舗なのだ。それが今、順調に客足を伸ばしているのである。
「チョイ高」商品はなぜ売れるのか。各業界でヒット商品を生み出した企業に人気のヒミツを聞いた。
テキサスバーガー 日本マクドナルド
「新世代」店舗をスタートさせる直前、日本マクドナルドは、1月7日から4月4日まで「Big America」と名付けたキャンペーンを展開した。
ビーフパテが通常の2.5倍の「テキサスバーガー」をはじめ、「ニューヨークバーガー」「ハワイアンバーガー」「カリフォルニアバーガー」など肉本来の味を楽しめるメニューを順番で提供していったのだ。
価格は、ビーフパテが2枚の「ビッグマック」が320円のところ、「テキサスバーガー」が420円と、100円の「チョイ高」だ。だが、キャンペーンで扱ったいずれの商品も品切れ店舗が続出するほどの好評ぶり。

1月17日には、1日の全店売上高が28億1180万円を記録し、創業以来の記録を更新した。
さらに、このヒットなどにより、'10年1〜3月期の決算は、経常利益が前年比74%増の101億3700万円と、四半期単位では'01年の上場以来初めてとなる100億円超えを達成したのだ。
日本マクドナルドのコーポレートリレーション本部コミュニケーション部の蟹谷賢次部長は、キャンペーンの狙いをこう説明する。
「確かにプライス的には高いと思いますが、それだけの価値があれば、お客様には納得していただけます。私たち提供する側にとって大事なことは、お客様に満足していただける価値を創造し続けていくことだと考えています」
デフレの状況の中で、とかく「安くなければ売れない」という思い込みが強くなっている。原価を割り込むような値引きに走り、経営を悪化させてしまった企業も少なくない。
当の日本マクドナルドがそうだった。'00年から平日半額の65円バーガーを売り出すなど「デフレの寵児」と言われたが、採算が悪化し、'02年12月期は初の赤字決算に陥ったのだ。
「安ければ買っていただけるだろうというので、単純に値下げした結果の失敗でした。その失敗から学んだのは、単純に値段を下げるというよりも、お客様に納得していただける価値をいかに提供していくかが大切ということです」(蟹谷氏)
同社は現在、消費者から復活を期待する声が強かった「チキンタツタ」をはじめ、「てりやきマックバーガー」など日本生まれのメニューを復活させる「日本の味」キャンペーンを展開している。こちらも期間限定だが、期間を区切るのも「今でないと食べられない」という一つの価値と言えるかもしれない。
店舗の雰囲気や満足感、"限定感"。日本マクドナルドは、そうした価値の提供によって、消費者の心を摑んだのだ。
