ジャーナリストが訪朝して感じた「閉ざされた国」北朝鮮のリアル

激変する「近くて遠い国」【前編】

冷たく素っ気なかった人々が、少しずつフレンドリーになっていく。深刻な貧困や食料不足が解消されない一方で、特権階級や富裕層がしだいに数を増し、格差もジリジリと広がっている──。

「閉ざされた国」のイメージが強い北朝鮮に入ったジャーナリスト立岩陽一郎さんが、現地でいま起こりつつある「変化」の現状を徹底取材した。

平壌とは別の国のよう

「あれは農地です」

4月29日、平壌を出て南へ向かうマイクロバスの中。隣の席で、私の案内と通訳を担当してくれる対文協(朝鮮対外文化連絡協会)日本局の男性局員Kさんが、車窓から外を指さしながら滑らかな日本語で言った。

「えっ? あれが農地……ですか?」

Kさんの指の先にある風景が、私にはどうしても、豊穣な実りをもたらす農地のそれには見えなかった。「荒涼とした大地」という形容がふさわしく思えた。

確かに、目の前に広がる土地に、人間が耕しているらしき部分はある。ただし、それをもって農地と呼ぶには、あまりにも貧弱なような気がした。茶色い土がむき出しになったままで、作物は影も形もない。

はるか向こうの、岩のところどころに苔が付着したような山肌を見ても、この周辺が農耕に適したエリアとは思えなかった。鉱山資源は豊富かもしれないが、野菜や穀物の恵みとは縁が乏しそうだ。

朝鮮半島の北半分にあるこの国は、常に食糧不足に悩まされている。原因は、政治体制の問題にもあるのかもしれない。

ただ、基本的に、朝鮮半島の南部が農耕に向いているのに比べて、北部は鉱物資源に恵まれ、工業に適していることは戦前から知られていた。だから戦前の日本統治時代、日本政府は、今の韓国に重なる半島の南側を食糧生産の地域とし、北部を重工業地帯と位置づけて産業政策を進めた。

そんなことを思い出していると、遠く窓外に広がる「農地」のところどころに、いくつかの人影が小さく見えた。草一本生えていない土地だが、何か作業をするのだろうか。

 

しばらく進むと、今度は車窓から集落が見えた。同じ形の家が十数軒ほど集まって建っている。

「あれが農家の人たちの家ですか?」と尋ねると、Kさんは「そうです。協同農場ですから、みんなで農作業をします」と答えてから、面白いことを付け加えた。

「家は山のふもとの辺りに建てられています。少しでも耕地面積を増やすためです」

肥沃ではない土地だけれども、農地として最大限に活用せざるをえない──ということだろう。厳しい食糧事情の一端を見たような気がした。

集落とその周辺に自動車は見かけなかった。多くの国の農地に当たり前のようにある農業用トラクターも見なかったが、牛は何頭かいた。

「平壌とはかなり違うね……」

私は思わず口にしたが、Kさんは聞こえなかったのか、あるいは返事をする必要もないと思ったのか、反応はなかった。

もちろん、答えてもらう必要はない。つい先ほどまで滞在していた平壌市内と、いま目の前に広がる荒漠とした地にあまりにも大きな落差があることは、誰の目にも明らかだからだ。

平壌と郊外ではまるで別の国のようだ──。マイクロバスに揺られながら、私は2日前に入ったこの国の巨大な首都のことを考えていた。