# 中国

中国政府が懸念する「次のチャイナショックは防げないかも…」問題

外貨準備3兆ドルでも盤石にあらず
唐鎌 大輔 プロフィール

ネガティブループ

IMFによれば、ARAはGDP対比で100~150%が推奨されるレンジだが(過度に外貨準備を積み上げる行為自体にも機会損失が伴うため上限はある)、現状で中国のARAは80%台まで落ち込んでいる(以下図)。

かかる状況下、上述したように、「人民元が下落した時に歯止めをかけるだけの弾薬である外貨準備高に不安を抱える」という懸念はやはりあるのだと推測される。もっとも、中国に関しては形振り構わない資本規制の厳格化によって資本逃避リスクを抑制しにいくことが予想されるため、ARAの水準だけをもって不安を煽ることも適切ではないという論点はあるかもしれない。だが、その場合は国外からの対中投資意欲の減退という副作用も受け入れることになる。

過去の寄稿『米中対立、中国政府が次に仕掛ける「7.0の攻防」の危ないシナリオ』でも論じたが、「1ドル=7.0元」という水準を守る行為は中国政府の面子を立てる以外の大きな意味はない。市場の意思に反する価格形成を強要するほど、必要となるドル売りの規模は大きくなり、外貨準備を失うことになるだろう。中国の経常収支がかつてのように巨額ではなくなっている以上、需給の緩みに応じた元安はごく自然なものであり、一定のフリーフォールは許容されるべきである。

この「一定の」は「緩やか」にとも読み替えられるが、確かにその際のドル売り(外貨準備の減少)は必要になろう。しかし、意地になって7.0に拘泥するよりは浅い傷で済むはずだ。問題は、ここにきて米商務省が「追加関税を相殺するための通貨安には追加関税で対抗する」という姿勢を示し始めていることである。

 

具体的には、政府の補助金を受けて不当に安く輸出されている(米国から見れば輸入されている)製品に課される補助金相殺関税(CVD:Countervailing Duty)の運用に関し、政府からの補助程度を計算するアプローチにおいて通貨切り下げの影響も検討する方針を示している。トランプ大統領が対中輸入2000億ドル分について10%から25%へ関税を引き上げる方針を表明した5月5日以降、人民元相場が下落基調にあり、今回の商務省声明はこれに応じた動きとの見方は根強い。その主張も分からなくはないが、その傍らで「一方的な元安は全く望んでいない」という中国の思惑もあり、しかもその思惑は上述した外貨準備の現状を踏まえれば相応に切迫しているようにも見える。

真っ当に考えれば、米国が中国に対して追加関税をかければかけるほど、中国がこれを相殺するために必要とする元安度合いは強くなるので、「1ドル=7.0元」攻防戦は熱を帯び、市場の注目を集め易くなる。市場の注目が集まるほど、7.0が突破されたときのボラティリティは大きくなると考えるのが自然だろう。客観的に考えれば、現状の米中対立が続く限り、「米国による関税賦課→元安→元買い介入→外貨準備減少→市場が注目」というネガティブなループが極まることが予想される。2015年8月の経験がまだ記憶に新しいであろうことを踏まえれば、中国の外貨準備をカタリストとするひと波乱は視野に入れておいても損はない論点だと考えられる。