漫画家で小説家の折原みとさんは、現在湘南の家でこりきというゴールデンリトリバーと一緒に住んでいる。実は湘南に越したのは30歳をすぎてから。19歳で上京し、21歳でデビューしてからは、東京・中目黒に住み、ミリオンとなった『時の輝き』をはじめとする少女小説や漫画で働きづめの生活を送っていた。

折原さんが湘南に越した大きな理由は、「犬を飼いたいから」だった。そしてゴールデンレトリバーのリキと出会い、二人三脚の充実した生活がスタートしたのだ。

折原さんのエッセイ『おひとりさま、犬をかう』には仕事とはなにか、豊かさとは何か、そしてペットと暮らすとは何かについてが書かれている。その中から、数回限定公開にて、デジタルメディアとして初めて抜粋掲載。今回は犬好きが高じて始めた「飲食店経営」の失敗と、そこで強く感じた飼い主へのお願いについてお伝えする。

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「噂」のドッグカフェはこうして始まった

かつては、朝寝て昼過ぎに起き、夜通し机に貼りついて仕事ばかりしていたヤワなインドア少女漫画家が、まさか自分で車を運転し、海と山を股にかけるアクティブ人間になろうとは!オーバー30からでも、人間ってここまで変われるモンなんですね。

でも、人生のセカンドシーズンの大暴走は、まだこんなものでは終わらない。

八ヶ岳の別荘ライフが始まって、4年が過ぎた頃、もはや立派な「犬バカ」になったおひとりさまは、またしても無謀なチャレンジに突っ走ることになる。

「ウチの隣のログハウスが空いているから店舗として賃貸に出そうと思ってるんだけど。折原さんお店でもやらない?」

そう声をかけてくれたのは、別荘を建てる時にお世話になった不動産会社の方だった。

「えー? 私がお店? 冗談でしょ」

最初は取り合わなかったが、興味本位で物件のログハウスを見学してみると、これがかなり広くてなかなか素敵な建物なのだ。別荘地の真ん中を走るメイン道路に面しているので立地もいい。

八ヶ岳の別荘に来ている時に、近くに気軽にランチやお茶が楽しめるカフェがあればいいのに……とは、常々思っていた。

しかも、リキと一緒に入れるお店だったらもっといい。
ん? 待てよ。
だったら、私が作っちゃえばいいんじゃない?

カチッ
やる気スイッチ、ON!!
しかも、ターボエンジン搭載。
漫画家の私が、ドッグカフェのオーナーに
そして、リキはお店の看板犬!

そんな素敵すぎる妄想に取りつかれた私の暴走を、もはや誰も止められなかった。

あれ、けっこう大変…?

まずは、保健所への営業許可申請。
飲食店を営業するためには、地元の保健所に「食品営業許可申請書」を提出し、許可を受けることが必要だ。「食品衛生責任者」の資格を持つ方に一緒に加わっていただいた。
また、店舗として借りたログハウスはモデルルームだったために、水道もガスも使うことはできなかった。

水道、ガスを引いてトイレも設備し、保健所の基準を満たすように、キッチンも大改造。建物の前の空地を整地して駐車場にして、駐車場からデッキに上がりやすいように、ログハウスの正面に階段も作った。

あれ……?

ほんの趣味程度に軽く考えていたけれど、お店をやるのってけっこうタイヘン!?

このへんまできて、やっと事の重大さに気付いたが、すでにかなりの設備投資をしてしまっているので、今更後には引けない。

後に引けなきゃ進むしかない!!

私は仕事の合間をぬっては八ヶ岳に赴き、開店準備に奔走した。

業務用の冷蔵庫や冷凍庫、製氷機のレンタル。食品や飲み物の卸業者との契約。
調理器具、食器、グラス、カトラリー、ナプキンやコースターに至るまで、買い揃えなければならないものは山程ある。

開店直前の忙しさは想像を絶するもので、さすがの私も「なんでこんなタイヘンなこと始めちゃったんだろう!?」と投げ出したくなる程だった。

とはいえ、ここまできたらやるっきゃない!!

お店を一緒に手伝ってくれた仲間たちと「八ヶ岳わんこ物語」前にて 写真提供/折原みと