元エリート官僚の息子殺害…親として「正義スイッチ」が入ったのか

ひきこもり高齢化が進む社会で
井戸 まさえ プロフィール

日本の殺人の半数は親族間殺人

日本の「子殺し」「親殺し」等の「親族間殺人」は殺人事件の約半数を占めている。

2003年に至るまでの過去25年は40%前後で推移してきていたが、その後10年間で約10%の上昇傾向をたどって以降、その傾向は続く。2018年の殺人事件のうち親族間殺人はほぼ半数の47.2%となった。未遂も含めるとその数字はさらに55%前後に上がる。

FBIの発表している2014年のアメリカの数値を見ると親族間殺人は14.3%。ただこれは約半数が関係性が把握されてない数字で、判別したものだけに限ってみると26.2%だ。

しかしその数値と比較しても日本の親族間殺人率は相当に高いものとなっている。特に、平成後半の15年で比率が上がった要因とは何か。一体「日本の家族」にどんな変化が起こっているのか。

親族間の殺人といってすぐに思い浮かぶのは児童虐待であろう。

熊澤元農水事務次官の事件の衝撃が続く中、5日後の6月6日には札幌市に住む21歳の母とその交際相手である24歳の男が子を衰弱死に至らせた疑いで逮捕されている。

物理的にも精神的にも圧倒的優位にある親が抵抗できない幼い子を殺してしまう事件はあとを絶たない。

一方で今回の元農水事務次官の事件はそれとは位相が違う事件に見える。それはテレビを通じて流された熊澤英昭容疑者の様子に象徴される。

 

移送時の姿に賛否

練馬警察署から警視庁に移送される際の熊澤英昭容疑者の姿は、息子を自ら殺害した凶悪事件の犯人とは見えないほど、落ち着いたものだった。

テレビのコメンテーターや著名人をはじめ、英昭容疑者の行動を肯定するわけではないとしながらも、一定の理解を示す人々も多くいて、「親として、同じ選択をしたかもしれない」「親としての覚悟を感じる」といったようなコメントをSNS上などで発信している。

一方では「自分が殺めたとはいえ、息子を亡くした親の嘆き、悲しみが見て取れない」「むしろ自分の正しさをアピールしているよう」「ずっとこの距離感で子育てをしてきたのだろうと思うと、子どもとしてはいたたまれないだろう」「子どもに対するゆがんだ支配欲が見える」等々、その姿に違和感を持ったという声もある。