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井上尚弥を育て上げた、誰でもできる子育ての秘密

「5-3-2」で諦めない子が育つ
井上 真吾

小さい頃から打ち込むメリット

15年前のあの日から、親子で一緒に練習を重ねてきました。尚弥の背丈は自分の腰にも満たなかった。拓真はさらに頭一つ小さかった。その小さな兄弟が小さな拳でジャブやストレートのようなものを日が暮れるまで放っていました。

 

このときのボクシングは遊びであり、趣味と思われるかもしれません。しかし、そうではありません。自分の気質上、中途半端にはやりたくなかった。6歳なら6歳にできる練習を考えて、一生懸命、教えてきました。

リトルリーグなどでは、子どものうちは身体を大きくすることや基礎体力をつけさせることが重要だとよく言われます。技術は高校や大学に行ってから習得すればいい、という考え方ですが、そうではないと思います。

小さいうちに正しい身体の使い方やしっかりとした技術を覚えるべきです。三つ子の魂百まで、ではないですが、小さいときに覚えた技術、身体の使い方は大人になっても忘れません。

細かい技術はむしろ子どものうちに教えた方が呑み込みが早いのではないでしょうか。

大人になると頭で一度、理論的に理解してから身体に覚えさせていきます。でも子どもは、頭で理解する前に身体で覚えてしまう。技術を1つひとつ積み上げていけば、フェイント1つ取っても、スパーリング大会でできるようになると、小さいながら達成感を得ることができます。そのフェイントから今度は右ストレートが当てられるようになれば、子どもたちはいっそう喜び、日々の練習に打ち込めるようになります。

井上真吾氏提供

とはいえ、小さな子どもですからボクシングが雑になるときもあります。手を抜いて、流した練習をしてしまうときもあります。

でもそのようなときも、頭ごなしに怒鳴りつけたり無理やりやらせようとはしませんでした。

「尚、ちょっとパンチ打ってみな」

とミットを構えます。打ち込むや否や、

「尚、すごいなーっ! 昨日よりパンチ強くなってんじゃん」

そう励ましたものです。子どもですから、ガラッと表情を変えて嬉しそうにミット打ちをせがみます。

「拓、今のステップワーク、速すぎて父さん見えなかった。もう1回やってみ」

拓真も嬉々として動きます。

15年前を振り返れば、親として、自分が大好きなボクシングを好きになってくれるように、飴と鞭を使い分けて工夫していました。それに子どもたちがうまくハマってくれたかな、という感じです。

親がやらせるというよりも、子ども自身が長じるにつれ、ボクシングの素晴らしさに気がつき始めていった。興味本位で始めたことですが、一生懸命やり続けることで競技の深奥が見えるようになったのです。