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血を抜かれ過ぎて…「アメリカ建国の父」の意外な死因

かつて流行った「トンデモ医療」

なぜ流行ったのか?

'24年、1万円札の「顔」が、福澤諭吉から渋沢栄一に刷新される。

日本では紙幣偽造を防止するため、20年ごとにデザインを変更するのが一般的だが、米国には長年1ドル札の顔として君臨し続ける人物がいる。初代大統領のジョージ・ワシントンだ。建国の父として、今なお尊敬を集めている人物だが、彼は意外な死因で世を去っている。なんと、血を抜かれすぎたのだ。

聖書に「生き物の命は血のなかにある」との記述があるように、太古の昔から、血液は生きる上で欠かせない要素として考えられていた。だが一方で、ヨーロッパでは古代より、瀉血、つまり血液を採取して除去することで、病が治るとも信じられてきた。一体なぜ、こんな治療法が流行ったのだろうか。

 

例えば「医学の父」と呼ばれる古代ギリシャの医者・ヒポクラテスは、病人は体内のバランスが乱れているため、血液を排出して浄化する必要があると考えた。また古代ローマでは、女性の月経は体内の毒素を排出する自然な働きと考えられており、瀉血(しゃっけつ)も合理的な治療法とみなされていた。

古代ギリシャの医学者・ガレノスは「どんな体の不調も瀉血で治る」と言い切り、この考えは長らくもてはやされることになる。その結果、天然痘やペストといった感染症、さらには精神病までも、血を抜いて治療するようになった。

そのせいで、多くの著名人が悲惨な目に遭った。

前述のワシントンは、大統領を辞任してから2年後、雪の降るなか馬を走らせた結果、風邪を引いてしまう。重い喉頭蓋炎を起こし、呼吸しづらくなった彼を見た主治医は、大量の瀉血を施す。その後、下剤と嘔吐剤を飲ませ、さらに追加で血を採った。

瀉血は翌日にも行われ、合計で2・5~4リットルの血を抜かれたワシントンは、間もなく息を引き取った。

17、18世紀に入り医学が進歩すると、ようやくこの危ない治療は退けられる。「トンデモ医療」で多くの犠牲を払いながら、医学の歴史は発展してきたのだ。(征)

『週刊現代』2019年6月15日号より