IT立国・ルワンダの首都を牛耳る中国人経営者たちの野心と本心

安田峰俊・チャイナフリカを往く②
安田 峰俊 プロフィール

虐殺と工場ワーカー

馬暁梅の夫(中国人)はケニアで別の会社を経営しており、彼女は現在もルワンダとケニアを行ったり来たりする生活を続けている。両国で縫製工場を経営するにあたっての環境の違いを尋ねてみた。

「インド洋に面しているケニアは港湾があるので、製品の輸送コストが安い。また東アフリカのなかでは政情が安定していて経済的にも発展している。なので、熟練工が多くて労働法規も比較的しっかりしています。旧イギリス植民地(英領東アフリカ)なので英語の通用度も高い。ただ、問題は人件費の高騰なんです」

ケニアの首都・ナイロビ市内の中心部。治安は悪いが、ルワンダよりも発展している。ちなみに中央の看板のInfiunixは中国の深圳に本社を置くスマホメーカー「伝音(Transsion)」が提供するブランドのひとつ。2019年4月安田撮影

いっぽう、内陸国であるルワンダは、港湾まで製品の輸送コストがかかり、過去の内戦の影響もあって熟練工が少なく、旧ベルギー植民地なので英語の通用度もケニアほどではない――。だが、とにかく人件費が安い。さらに人材のポテンシャルが高いのもメリットだ。

「ルワンダ人は性格がおとなしい人が多いのもいいですね。過去にルワンダ虐殺があったことで、ルワンダ人はかえって自分と他人の人生を重視するというか、穏健に生きていくことを大事に思う傾向があるように思えます。工場での労働争議もほとんどないんですよ」

私が見た限りでも、ルワンダ人は隣国のケニア人(特に最大民族のキクユ族)やコンゴ(旧ザイール)人と比べて体格が小柄であり、押しが弱くて生真面目な人が多い印象だ。

ルワンダの首都・キガリ市の中心部。ケニアのナイロビと比べると全体的に「草食系」の印象だ。2019年4月安田撮影

皮肉な話だが、かつてこの国で1994年に50万〜80万人の犠牲者を出す極端な大虐殺が起き、過激な思想を持つ民兵だけではなく大量の一般人が動員を受けて虐殺行為の当事者になってしまったのも、上位者の指示に「生真面目に」従いやすいルワンダ人の性質を反映した現象だったと言えるかもしれない。

だが、工場経営者の視点から見た場合、そうした控えめで生真面目な性格は、製造現場のワーカーとしては優秀な資質でもあるのだ。

 

ストロングおばちゃん、軍服を作る

C&H社が本社と工場を置くのは、ルワンダ政府肝煎りのキガリSEZ(Special Economic Zone)フェイズ1区画である。空港付近に位置するこのSEZは2006年にプログラムがスタートし、法人税が半額、輸入税・付加価値税を免除する(条件あり)形で投資を受け入れている。

フェイズ1区画は、98ヘクタール(東京ドーム約21個分)の面積に、ドイツのフォルクスワーゲンや、ウガンダやドバイを拠点に初のアフリカ産スマホを売り出そうとしているITメーカーのMaraPhoneなどをはじめとした47社が進出していた。

キガリSEZにある北京建工(BCEG)の敷地入り口。内部には入れない。2019年4月安田撮影

歩いて確認した限り、この区画内に中国系企業は3社あった。ただ、残り2社は中国国有企業の北京建工(BCEG)と安徽省の大手企業・中辰建設(CHINA STAR)という大手ゼネコンであり、馬暁梅がアフリカでゼロから立ち上げたC&H社はかなり特殊だ。

馬暁梅本人は「政商」という怪しげな言葉が似合わない熱血おばちゃんだが、カガメ大統領の訪中に随行して北京へ行くなど、中国・ルワンダの両政府と良好な関係を築いている。中国企業と現地政府との「合作」関係のモデル企業としても広く知られるようになり、ベナン・セネガル・ザンビアなど他のアフリカ各国の大統領による視察も多い。

アフリカの政治と社会にがっちりと食い込むことは、経営の安定の上でも重要だ。C&H社の製品の8割は輸出向けであるいっぽう、残り2割は国内向け。こちらの国内向け製品では、ルワンダ国軍の軍服を受注製造するなど、政府系の大口の仕事をガンガン取っている。

数多くの要人の訪問を伝えるC&H社内のパネル。2019年4月安田撮影

「制服の製造を含めた、国家から発注される案件は、いちど納品契約を結べば定期的に一定の数量の発注が続きます。特に発展途上国の場合、一般市場向けの服は発注が安定しないリスクが比較的大きい。国家の制服製造のような案件は、縫製会社にとっては生産計画が立てやすくてありがたい仕事なんです。それをしっかり受注できている彼女は、同業の者として羨ましいし、尊敬できる。経営者として優秀だと思いますね」

ちょうどC&H社で商談中だった、岐阜県羽島市に本社を置く縫製会社・ウェッジの上野広太郎氏はそう話した。ウェッジ社は中国に工場を持っているが、人件費の高騰を受けて近年はカンボジアにも進出している。ただ、いまやカンボジアでも月に200ドル近くの人件費がかかるようになっており、「月80ドル」というルワンダのワーカーの給与水準は魅力的だという。

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