義足のランニング教室

沖野氏は「オキノスポーツ義肢装具」設立直後から、毎月1回ランニング教室を開催している。彼が作った義足のユーザーだけでなく、子どもも大人も義足で走りたい人は誰でも参加できる。

「はじめて参加した人には、義足側の足に体重を乗せる感覚をつかんでもらいます。それができると、歩き方も走り方もずいぶん変わってきますから。義足で走るクラブも増えてきましたけど、趣味の域を抜け出していないところが少なくありません。私は理にかなった走り方を教えたいと思っているのです」

ときには自分もトラックを走る。40代になっても100メートルを12秒台前半で走る沖野氏の姿に、参加者から溜息が漏れる。 

山梨県の甲府からランニング教室に通っている小学五年生の関口颯太くんは、両足に板バネ義足をつけて走る練習をしている。
「この教室に通わなければ、走るという感覚がわからなかった。いま60メートルの最速タイムが13秒台だけど、目標は10秒を切ることです」

ランニングスクールでの沖野さんと颯太くん(写真右) 写真提供/沖野敦郎

颯太くんの言葉に頷きながら、沖野氏はこう語る。

「東京パラリンピックをきっかけに、パラアスリートも走ることでメシが食えるようになってほしい。そのために何よりも大事なのは、常に自己ベスト更新を目ざそうとする気持ちです。生ぬるいトレーニングをしていたら、私が許しませんよ(笑)」

鬼のオッキー! これから始まる私のトレーニングも厳しいものとなりそうだ。

まずは「立つ練習」

義足ができました

私の40年ぶりの義足が完成したという連絡が入った。短いスタビー義足。ソケットのすぐ下に足部がついた義足から練習を始めるやり方は40年前と同じだ。義足を着けるのは竹馬に乗るようなもの。低いものから高いものへ、徐々に体を慣らしていくのだ。

2018年2月、朝から雪の降る日だった。できたての義足を着けるために、オキノスポーツ義肢装具へ向かう。ビルの一階にあるガラス張りの工房に入ると、おしゃれな作業着を身にまとった沖野氏が義足を抱えて待っていた。

子どものころの義足より、ずいぶん小さい印象を受けた。もちろん、それはただの錯覚で、当時よりも私の身体が大きくなっているだけなのだろう。

椅子に座った私の大腿部に、マネジャーの北村が義足を装着する。シリコンライナーの上にソケットをはめ込むのだが、沖野氏の計算通りジャストフィットの装着感だ。エンジニアの遠藤氏も笑顔で見守ってくれている。

ぱっと見、ドナルドダックのような下半身になった。40代のおじさんに使う言葉ではないかもしれないが、なかなかかわいい。

初めて…いや、38年ぶりに義足をつける 写真提供/遠藤謙 

「これで、原則的には立てます」

椅子に腰掛けたまま足をパタパタさせていると、沖野氏からそう声が掛かった。

あくまで「原則的には」だ。義足をはじめて着けた人は、バランスを取るのが難しくて最初は立つことすらできないという。実際に私も「今日は立つ練習から始めましょう」と言われていた。